自民党幹事長代行
稲田 朋美 氏
プロフィール
稲田 朋美
(いなだ ともみ)
1959年2月生まれ。早稲田大卒後、弁護士登録。2005年、衆院選(福井1区)で初当選し、安倍政権で規制改革担当相、自民党政調会長、防衛相などを歴任。17年7月、自衛隊による南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報を巡る問題の責任を取り、防衛相を辞任した。19年9月から党幹事長代行を務める。
自民党の稲田朋美幹事長代行は12月19日、福岡市のホテルニューオータニ博多で開かれた毎日・世論フォーラムで、約130人を前に「伝統と創造」をテーマに講演した。2020年度税制改正大綱で、自らが主導して盛り込まれた「寡婦(夫)控除」の「未婚の一人親」世帯への対象拡大に触れ、「自民党に欠けているのは『多様性』。伝統と国柄を守りつつ、変えるべきものは変え、多様性も認めることで、世界から尊敬される」と訴えた。また、一人親世帯への支援について、「伝統とか保守ではなく、憲法14条の法の下の平等から、差別する合理的な理由がないと思った」と強調した。講演要旨は次の通り。
防衛大臣を辞めてから、女性活躍の問題や未婚の一人親の税制に取り組んできた。税調では未婚の一人親の税制の問題を、女性の国会議員、自民党の国会議員とともに頑張り、成し遂げた。結婚して夫を亡くした人、それから結婚して離婚した人は所得税や住民税で寡婦控除という控除を受けられる。しかし未婚の一人親、シングルマザー、シングルファーザーには実は控除はなかった。なぜかというと、自民党の伝統的な家族観、保守的な考え方からして、結婚もしないで子供を産んで育てている人を援助したら、そういう人を増やすじゃないか。日本の麗しき伝統的な家族観に反する、と。
私はおかしなことだと思った。一人で生んで一人で育てている人、どんなに大変かと。なぜ平等に支援できないのかと。伝統的家族とか、そんなことを持ち出す人って、結局は子育てしたこともないような、石頭のおじさんに違いないと思った。実際そうだ。税制のインナーって。自民党の税制のインナーというのはものすごく格式が高い。本当に税の専門家が集まっていて、聖域と言われている。でも一人も女性はいない。それでいいのかと今回は思った。
女性の国会議員の議連を作り、自民党本部に女性の政策を進めていく部屋も初めて作った。そういう部屋ができ、議連ができ、今回の税調で、平等な制度にしてくれと女性の国会議員が中心となって発言した。にもかかわらず税調会長は、サイレントマジョリティーの声は伝統的な家族を守るということなので、未婚の一人親は貧しい家庭に限って寡婦控除を適用しましょうと。そこに段差をつけると言った。そこからもう一回、今度は女性だけではなくて、若手の男性を交えて、賛同者を最終的には144名まで増やして、10名以上に、しかも男性にたくさん発言をしてもらって、最終的に平等な制度にすることができた。画期的な闘いを女性議員中心にやった。
インナーの方々は「稲田さんも変わったもんだ」「保守的な人だと思っていたのに宗旨替えしたな」とか、また意地悪なこと言っている。私はそういう問題ではなくて、これは憲法上の14条の平等とか、公平の問題で、未婚の一人親だということだけで差別することの合理的な理由がないと考えている。今回平等な制度にすることができて、非常にうれしかった。と同時に、女性の国会議員が団結して成し遂げたということを後押しに、政治における女性の参画の問題について、ちゃんとやっていかなきゃいけないと思っている。
もうかなり女性の話をしているが、今日は憲法の話をしようと思って来た。自民党は4項目出している。緊急事態、教育、合区、自衛隊の明記、9条。この四つだが、やはり1丁目1番地は9条。なぜ9条なのか。9条の1項はご承知の通り、不戦条約そのもの。侵略戦争しないという当たり前のことが書いてある。問題は2項で、前項の目的を達成するために陸海空などその他の戦力はこれを保持しない、交戦権は認めないということが書いてあるので、憲法学者の7割8割は自衛隊は憲法違反、ないしは憲法違反の可能性があると考えている。それから天下の公党も、自衛隊が憲法違反だということを言っている。
その中で、日本を取り巻く安全保障状況はどうかということ。私もたった1年だが防衛大臣をやり、日本を取り巻く安全保障環境がこんなにも厳しく、その厳しさが増していくスピードが本当に速いということ(を知った)。北朝鮮からミサイルが5月からすでに13回飛んでいるし、20発以上のミサイルが日本海にぶち込まれている。中国と北朝鮮を合わせると、1000発ぐらいは日本を射程に入れたミサイルを持っている。日本はどういうミサイル防衛をしているかというと、ミサイルをミサイルで撃ち落とす。いったい何発までミサイルを撃ち落とせるのかということがある。たとえミサイルを日本に撃ち込むと分かったとしても、敵基地を攻撃する能力はすべて米国に頼っている。そういう状況の中で日本をどうやって守るのかということが実は突きつけられている課題だ。
中国はGDPも世界2位、そして軍事費も日本の3、4倍。そしてどんどん軍備を拡張して、民主主義のコストがかからないので、ものすごく効率的にやっていく。どうやって日本はその中国と付き合っていくのか。トランプ政権になって、米中は緊張関係にある。いまは経済だが、それが安全保障までなったときに最前線にいる国は日本。アメリカと韓国と日本が協力して、地域の平和と安定を図らなきゃいけない状況のなかで、どうやって日本を守っていくのかというときに、自衛権ぐらい明記できなくて、この国を守るという気概をこの世界に発信することができるのか、と訴えたい。
ただ、日本はやっぱり素晴らしい国。令和。ビューティフルハーモニー。和の国だ。和の国ということからすると、本当に9条とか、前文というのは和の国にふさわしいものかもしれない。ただ、やはり自衛隊をしっかり、これは憲法に位置づけることが必要だと私は思っている。日本のそういった伝統、国柄を守りつつ、変えるべきものは変える。多様性も認めていく。断固として改革をしていく。そうすることによって、日本が世界中から尊敬される。世界中から尊敬される道義大国を目指したいと思っている。