毎日・世論フォーラム
第317回
平成31年4月18日
ジャーナリスト 田原 総一朗

テーマ
「『平成』から『令和』へ 新時代への提言」

会場:ホテルオークラ福岡

新時代は
「やる気の持続」と強調

田原 総一朗 ジャーナリスト
田原 総一朗 氏

プロフィール

田原 総一朗
(たはら そういちろう)

1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。
『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。また、『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』(講談社)、『誰もが書かなかった日本の戦争』(ポプラ社)など著書多数。

 第317回例会は、ジャーナリストの田原総一朗氏が「『平成』から『令和』へ 新時代への提言」と題し講演した。会員200人が参加した。田原氏は日本企業が世界で存在感をなくしつつある現状に触れ「大企業の経営者がチャレンジする気持ちを失った結果だ。経営者が失敗とチャレンジを認めないことが日本を駄目にしている」と批判した。また、パナソニックの創業者の故松下幸之助氏が部下を抜てきする際のポイントとして「難しい問題にぶつかった時に面白がって取り組める人間だ」と話したエピソードを紹介し、「人工知能になくて人間にあるのはモチベーション、やる気だ。それをいかに持ち続けられるかが勝負になる」と強調した。講演要旨は次の通り。

 いろんなテーマで話ができると思うが、経済を中心にやっていきたい。安倍首相がアベノミクスと言い出した。アベノミクスで政府が何やったか。まず異次元の金融緩和。当然需要が増えて、景気が良くなると思っていた。ところが国債を発行して、金をばらまいても需要は増えない。がんがん金をばらまいても日本の企業が設備投資をしない。給料も上げない。そして企業の内部留保が440兆円。つまり経営者が夢も展望もないと思っている証拠だ。
 何故こうなったのか。実は1989年には、世界のトップ20社の中に日本の企業が14社入っていた。ところが2018年、トップ20社の中に日本は1社も入っていない。日本では時価総額1位のトヨタが、何と世界35位。どうしてこんなに落ちたのか。さらに1989年には一人当たりのGDPは日本は世界第4位だった。ところが一昨年は25位に落ちた。1989年はトップ20社の中に1社も入っていなかった中国の企業が4社も入っている。なぜこんなに日本がダメになったのか。一言で言えば、日本の大企業の経営者がどうしようもなかった。つまりチャレンジする気持ちを完全に失ったからだ。
 ところが今、危機感を持ち始めた企業が少なくない。例えばさっきのトヨタの社長。あるいはパナソニック、日立の社長。三井住友銀行の頭取。三菱UFJの頭取。10社ばかりの日本を代表する企業のトップがすごい危機感を持っている。こういう企業はいずれもメインの研究所をアメリカのシリコンバレーに作っている。何故日本はこんなに立ち後れたのか。日本には今、AI、人工知能の研究者がほとんど育っていない。日本に来てくれない。だからシリコンバレーに研究所をつくって、そういう研究者を入れる。
 トヨタのメイン研究所のトップはアメリカ人だ。パナソニックのメイン研究所のトップは日本人。馬場渉という人。東京で会った。なぜアメリカの人工知能の研究者たちが日本に来てくれないんだと。彼は、日本の経営者たちがシャットアウトしているんだと。これが日本が立ち後れた最大の原因だと。日本の経営者は3代目、4代目になって、みんな守りの経営になった。失敗を認めない。ところが人工知能を開発しようとすれば、3回4回失敗しないと開発できない。日本の経営では一切失敗を認めないから来ない。だからチャレンジできない。これが日本を駄目にしている。
 伊藤忠という会社がある。丹波宇一郎という社長がいた。後に中国大使になった。この丹波宇一郎をとても信用していて、彼は社長になった時、伊藤忠は4000億円の負債を隠していた。彼はそれを全部露呈した。その代わりに、彼は半年間給料ゼロ。ハイヤーなし。電車通勤。その丹波宇一郎が日本の企業は自衛隊と同じだと言う。イギリスやフランスなど外国の部隊はネガティブリストといって、こういうことをやっちゃだめだと言われている以外は何やってもいい。これが普通の国の軍隊。ところが日本の軍隊のリストはポジティブリスト。これとこれをやっていいということ以外やってはいけない。同じように日本の企業も実はポジティブリストだと。経営者がこれはいいよ、と言うことしかやっちゃいけない。だから東芝事件なんていうのが起きる。粉飾決算。中堅以上の社員ならすぐ分かる。なぜ言わないのか。言ったら左遷になる。何で日本の企業は次から次に不正が起きるのか。言ったら左遷になるからだ。こういう状況でイノベーションなど起きるはずがない。だからどんどん落ち込んでいく。
 大企業の経営者たちは、危機感を持っている。根本的に変わらないとどうしようもない。しかしこれは逆に言えば、元に戻ったわけだ。松下幸之助に、あなたは部下を抜擢する時に、あるいは社長にする時に部下のどこを買うのかと聞いた。難しい問題にぶつかった時に、それをおもしろがって取り組める人間だと。今の一番最先端でこのことが言われている。
 落合陽一が何と言っているか。これから人工知能がどんどん発達してくる。けど、人間にあって人工知能にまったくないものはモチベーションだと。やる気。人工知能にやる気はない。人間はやる気がある。だからこれから人工知能が普及する中で、人間が人工知能を使える側になるか。人工知能に使われる側になるのかは、モチベーションを持てるかどうかだと、落合は言う。要するにやる気。難しい問題にぶつかった時におもしろがって取り組む。今の最先端のことを松下幸之助は言っていた。
 日本のマスメディアも悲観的だ。2015年にオクスフォード大の学者たちと、野村総研が共同研究した。20年先には人工知能に仕事をとられて、日本人の仕事の49%がなくなると。あるいは早ければ2045年、遅くとも2055年には人類の仕事の90%がなくなるんじゃないか。違う。仕事は作ればいい。人間がいかにモチベーションを持ち続けられるか。これが勝負だ。モチベーションを持つ限り人間は人工知能を使う側に回ると思っている。

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