毎日・世論フォーラム
第318回
2019年5月23日
立憲民主党代表代行 長妻 昭

テーマ
「令和新時代の政策と日本の将来」

会場:西鉄グランドホテル

子育てや介護の
環境整備を

長妻 昭 立憲民主党代表代行
長妻 昭 氏

プロフィール

長妻 昭
(ながつま あきら)

昭和35年6月 東京都練馬区生まれ、慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、日本電気株式会社入社 汎用コンピューターの営業マンから日経BP社に途中入社。日経ビジネス誌の記者に。金融危機をはじめ幅広く取材・執筆 (最初は電機メーカー担当、後半は金融、行政、政治担当に) 平成12年6月衆議院議員初当選・小選挙区東京7区、衆議院議員を7期目、これまで、厚生労働大臣、年金改革担当大臣、衆議院厚生労働委員長、厚生労働部門会議座長、民進党代表代行、現在、立憲民主党代表代行、選挙対策委員長 趣味は映画鑑賞、カラオケ、サッカー、キャンプ

 第318回例会は、長妻 昭・立憲民主党代表代行が、「令和新時代の政策と日本の将来」と題し講演、会員140人が参加した。長妻氏は女性の社会進出が進まなかったり教育格差が埋まらなかったりする背景に「昭和時代に培われた古い価値観がいまだに政権中枢にある」と指摘。子育てや介護の大胆な環境整備や、給付型奨学金の拡充などを訴えた。貧困問題にも言及し、日本の所得再分配が先進国で最低レベルにあることや生活保護の支給水準が低いことを挙げ、「どんな環境でも持ち味を発揮できるようにしなければならない。貧困の連鎖を断つことは、社会や経済の発展にプラスにつながる」と強調した。講演要旨は次の通り。

 今、政府は戦後最長の好景気と言っているが、実感がないのがほとんど。ここに日本の経済社会の最大の問題がある。一つは格差の問題。貧困、格差に焦点を当てた「相対的貧困率」という指標があるが、日本は先進国で米国に次いで大きな国になった。株や土地を持っている人は景気回復の実感を持てるが、それ以外は実感がない。中央と地方の格差も広がっている。もう一つは、時代とともに変えないといけなかった昭和の価値観がいまだにある。ここに生活の質の向上を感じ得ない原因があるのではないか。
 「介護や子育ては家庭で女性がするものだ」と声高に言う政治家はいないが、今の国家中枢はこの発想をまちがいなく引きずっている。だから、子育て、介護の政策が脆弱だ。女性の労働市場参加率も先進国最低レベル。IMFのラガルド専務理事が来日の際に言っていたが、女性の労働市場参加率が欧州並みになったら1人あたりGDPが4%増える。しかし子育て環境が許してくれない。そして親の介護で仕事をやめないといけない介護離職が年間10万人いて増えている。介護、子育ての政策が小粒で場当たり的だ。
 他に変えるべき昭和の価値観。それは「金がないのに良い教育を望むのは非常識」という考え方だ。先進国の中ではこうした考え方は非常識になっている。だが、日本は家庭の教育費の自己負担比率が先進国で一番高くなった。4年生大学進学率も先進国平均の60%を下回って日本は50%。年収400万円以下の家庭では3割を切る一方、年収825万円を超える家庭は6割を超える。IMFやOECDから格差が大きな国は経済成長できないというレポートが出た。一部の人しか力が発揮できないから経済の発展ができない。日本もその罠に陥っている。我々は給付型奨学金を設けて、望めば適切な教育を受ける環境を整備したい。
 もう一つは非正規雇用の問題。正社員になりたいが、非正規雇用になったということで「不本意非正規雇用」という言葉がある。就職氷河期で40歳前後の方々はそういう方が多い。今は非正規雇用は4割以上に上る。私は政権中枢の人たちが「不本意非正規雇用は努力で解決できる」という発想を持っていると疑っている。しかし自分の努力でどう改善すればいいのか。日本は非正規雇用が増えすぎて、スキルが上がらない。先進国20カ国で稼ぐ力、労働生産性が20位まで落ちた。経済にもマイナスになっており、我々は政策を駆使して少しでも改善していきたい。
 昭和の価値観で最後に申し上げるのが、「集団行動第一主義」だ。日本人の美徳でもあるが、あまりに行きすぎている。企業の不祥事が新聞を賑わしているが、不正まがいの指示が上から降りてきても誰も疑問の声を上げない。こういう「忖度」が深刻な事態を生んでいる。組織化が進んでいる中で、日本を一つに染める政治が続いているのではないか。そういう中で官僚も含め同調圧力が強まる傾向に強い危惧を持っている。今、少子化にも関わらず児童虐待は戦後最悪の数になった。小中高生だけでも自殺者の数は年間300人を上回った。不登校率も最悪の数字。15歳から34歳の死因のトップが自殺という国も先進国で日本だけ。自殺率も先進国で1位だ。一人ひとりは違ってもそれをきちんと認めて持ち味を発揮できる社会を作らなければ日本の将来は暗い。違いが対立にならない社会を作ることが大切だ。
 税の所得再分配も日本は先進国で一番弱い。金持ちにはうれしい国だ。哲学者のロールズの「無知のヴェール」という考え方に、皆さんが地球上に生まれる前に集まって議論したら、どんな社会や国の仕組みを考えるかという思考実験がある。自分がどういう家庭や国に生まれるか分からないうちに議論するなら、仮に自分が恵まれない状況でも人間らしい生き方や適切な教育を受けられる社会を望むのでないか。そういう視点で社会をつくることが我々の眼目だ。
 最後に消費税の話。我々は10月に消費増税があることについて反対している。私も3党協議の時に、民主党の社会保障の責任者として消費増税の議論をした。その時に自民党と公明党と話したのは、貧困の連鎖を起こさない、格差を是正するために消費税の財源が必要だということだ。その中に「総合合算制度」というものもあった。介護、医療、保育などいろんな社会保障サービスを重ねて受けないといけないことが一つの家庭に起きた時に家庭が破綻しないよう、自己負担の上限を決めるものだ。だが今回、それは削除された。そして突如としてお金持ちを含めた幼児教育無償化が出てきた。格差是正の理念がふっとんでいる。我々は当初の理念と違うので消費増税に反対するが、中長期的には格差是正のために税制の改革をしないといけないという考え方だ。
 原発ゼロ、自然エネルギー増強も不十分。原発ゼロは今やリアリズムだ。自然エネルギーは地産地消、地方創生の切り札の一つという考え方の下、メリハリを付けた政策提言をしたい。

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