毎日・世論フォーラム
第320回
2019年7月24日
元経済企画庁長官 田中 秀征

テーマ
「参院選と政治改革の行方」

会場:ホテルニューオータニ博多

投票率、
小選挙区制導入と分析

田中 秀征 元経済企画庁長官
田中 秀征 氏

プロフィール

田中 秀征
(たなか ひでまさ)

1940年生まれ。東京大学文学部、北海道大学法学部卒。83年衆院選で自民党から初当選し、衆院議員3期。93年に自民党を離党し、新党さきがけを結成、代表代行を務めた。細川内閣で首相特別補佐、橋本内閣で経済企画庁長官などを歴任。現在、福山大学客員教授。TBSテレビ「サンデーモーニング」(RKB)のコメンテーターとして活躍中。著書に『自民党本流と保守本流 保守二党ふたたび』(講談社)など。

 第320回例会は、元経済企画庁長官の田中秀征氏が「参院選と政治改革の行方」と題し講演した。会員150人が参加した。田中氏は、参院選で投票率が48・80%と低水準になった結果を「自民党内に反対勢力がなく、国会内にも対抗できる勢力が存在しない状況が、有権者が投票に行く意欲をなくさせている」と指摘した。
 こうした状況を生み出した要因が1996年の衆院選から導入された小選挙区制にあると分析。「選挙区で強力な支援組織が自民候補1人を応援する構図で、中選挙区制のように自民候補同士の争いもなくなった。議員が勉強しなくなり政策論争も減った」とし、選挙制度改革の必要性を訴えた。講演要旨は次の通り。

 参院選では、自民は単独で過半数を割った。憲法改正に必要な「3分の2」の観点からみると、自民党の憲法改正に同調すると思われる公明党と日本維新の会を足して4人足りない。投票率は5割を割って48%台という驚異的な低さ。24年前の戦後最低の投票率は阪神淡路大震災があって地下鉄サリン事件があった1995年の参院選。今回、それに次ぐ数字が出てしまった。投票率と政党の得票率をかけると全有権者の「絶対得票率」が出るが、今回の自民党はわずかに20%そこそこ。それがこれからの難局にあたる。自民党内に安倍さんに対する際だった反対勢力がいないことと、国会内に自民党に対抗できる勢力が存在しないし存在しそうにないという状況が、有権者が投票所に足を運ぶ意欲をなくさせていると総括ができる。
 選挙制度改革についてだが、冷戦が終結し平成が始まった時にマイナスの遺産として昭和から引き継いだ大きなものが二つある。一つはバブル経済の後始末。結果的に目星がついたのは小泉内閣のころだった。もう一つが構造汚職。これは一人ひとりの腐敗でなく、構造的な腐敗のこと。自民党は選挙に勝つために思想的な考えがなくても当時強かった「保守本流」といわれた田中角栄派や宏池会に入った。そういう人は腐敗する。最終的にリクルート事件を含めた構造的な汚職となった。だが、その対応がよくなかった。小選挙区制に向かってしまった。 中選挙区制時代によく言われたことは、政治家が国会の本会議場に入ってどこに目がいくかというと同じ党の同じ選挙区の人だった。もし席に座っていないのなら、選挙区で大事な人が亡くなったかもしれない、自分だけ何も知らないでこういうところいるかもしれないと心配になって大急ぎで事務所に確認させる。そのくらい同じ党の同じ選挙区の人が気になる。ただ、これは投票用紙に複数の人の名前を書く「連記制」で乗り切れる。そうするとけんかしなくなる。たとえば4人区で2人自民党が出ているのであれば、有権者が2人名前を書けばその2人によるサービス競争につながる。連記制はそういう効果がある。
 ただ当時は小選挙区制ありきだった。中選挙区制はいけないということになって、細川護煕内閣で細川さんと僕と武村正義さんで考え、当初は全国比例250、小選挙区250という案を出し93年11月に衆院を通過した。当時の総理の特別委員会、本会議の答弁で「二大政党制」とは一言も言っていない。むしろ「穏健な多党制」という言葉を使った。例えば、福島の事故は人災と思っている。きちっとしたチェック機能が働かなかったからだ。全国比例だと原発に政策的関心を持つグループが当選して集団を作れる。その人たちが行政の監視機能や電力会社を監視する。そういうことをしていればあんなことにはならなかった。しかし、法案は結果として、年明けに社会党が反対して参院で暗礁に乗り上げ、94年1月末に(当時の自民党総裁だった)河野洋平さんと細川さんのトップ会談であっという間に自民党案を丸呑みして現行制度ができた。僕は政治家になってあの時くらい背中が寒くなったことはなかった。日本はダメになると。そのまま相当の年数を経てしまった。
 自民党には極めて強力な支援組織が六つある。農業団体、商工団体、建設業、特定郵便局、遺族会、そして、医師、薬剤師、歯科医師の三師会。この強力な支援組織がたった1人の自民候補を推すことが問題だ。中選挙区制であれば、農業団体が支援に力を入れる候補は商工団体との関係は薄くなる。逆もそう。TPPもそうだが利害の調整が必要になる。かつては自民党の政調部会はすさまじいけんかをしていた。そうすると一人ひとり勉強する。役人は2~3年で担当が替わるけど、政治家は農業、商業に何十年も関わると知識が役人より上になる。ところが今は、難しい問題は口に出さないし、口にしたら農業、商業の両方から嫌われる。TPPで農業者側の喜ぶことばかりいうと、経済界の人は面白くない。その結果、政治家の重要な仕事である利害調整を官僚に投げた。
 こんな状態を放置していいのか。このことには、細川さんは深刻な反省をして一方の当事者の河野さんも「間違い」と言っている。英国のチャーチル元首相の言葉で「ダイナミックな指導者はあらゆる制度の枠を突破して突き進む」と言った。その時代に必要な指導者はどんな制度の枠も突破して突き進むのであれば、この小選挙区制の中で優秀な指導者が出るはずだというのならその通り。でも待っても出てこないこともあり得る。質の高い政治家を出すのにどうしたらいいかというと、一つは、93年に衆議院を通った案をもう一度出してみる、または連記制が望ましい。二世万能もよくない。世襲の人がだめだとは思わないが、大半を占めるのは望ましくない。

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