毎日・世論フォーラム
2019 夏季会員交流会
平成31年8月20日
毎日新聞論説委員 元村 有希子

テーマ
「“人生100年時代”を考える」

会場:ホテル日航福岡

最先端技術の
現状と可能性

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元村 有希子 毎日新聞論説委員
元村 有希子 氏

プロフィール

元村 有希子
(もとむら ゆきこ)

 1966年、福岡県北九州市生まれ。小倉高校、九州大学教育学部を卒業し、89年、毎日新聞入社。西部本社報道部、福岡総局などを経て2001年、東京本社科学環境部。科学技術と社会との関係をつづった連載『理系白書』により06年の第1回科学ジャーナリスト大賞を受賞。科学環境部長などを経て19年6月から論説委員。近著に『カガク力を強くする!』(岩波ジュニア新書)『科学のミカタ』(毎日新聞出版)などがある。科学コミュニケーターとして全国で授業や講演をこなし、TBS『新情報7days ニュースキャスター』『サンデーモーニング』、RKB『サンデーウォッチ』のコメンテーターも務める。

 「毎日・世論フォーラム」の会員交流会が8月20日、福岡市博多区のホテル日航福岡であり、毎日新聞論説委員の元村有希子氏(53)が「“人生100年時代”を考える」の演題で、約120人を前に語った。
 RKB毎日放送の櫻井浩二アナウンサーとの対談形式で、元村氏は再生医療や遺伝子工学など最先端技術の現状や可能性を解説。「科学は空を飛びたいとか病気を治したいとかかつてはもっと無邪気だった。しかし、最低限のニーズが満たされたこれからは、人工知能(AI)など単純に白黒付けられないものも出てくる」と指摘した。
 そのうえで、人生の最後を生活の質(QOL)を保ちながら充実させる大切さに触れ、「技術が進み続けても別の不幸せが出るかもしれない。人生をしまう方の技術や社会制度もあっていい」などと述べた。講演後は懇親会があり、会員同士がにぎやかに交流した。対談の要旨は次の通り。

櫻井

 きょうは人生100年時代というテーマですけど、みなさんどうですか。100歳まで生きたいと思っている方いらっしゃいますか。

元村

 手を挙げていただきましょうか…パラパラですね。私調べてきたんですけど、日本人の平均寿命、1947年だから70年前ぐらいですか。このときって男性50歳、女性54歳だったんですよね。この70年間で30年近く長生きになっているんですよ。今は男性81歳、女性87歳。予測があるんですけど、2064年は、男性85歳、女性91歳。今でも高齢化率は27%。2065年には38%まで上がる。5人に2人は高齢者ということになります。でも高齢化は、悪いことではないと私は思っていて。つまり日本は課題先進国なんですよね。世界で2番目くらいに高齢化が進んでいて、高齢化と少子化が進むなかでどうやって人口減少と折り合いをつけながら、生きていくかという。ここに科学とか医療とかテクノロジーの貢献できる部分もあるし、日本がどうやって生き延びていくかということを考える人が増えていきますよね。それは悪くないと思う。

櫻井

 医療が今後ますます進化していくわけでしょう。ますます長生きできるようになるっていうことなんですよね。

元村

 70年前の日本人の死因ベスト3、何だと思いますか。1位が結核、2位が肺炎、3位が胃腸炎です。このころは人間はばい菌とかウイルスに弱かったんです。ストレプトマイシンという特効薬が1940年代に発明されて、結核が治る病気になる。で、1990年のトップスリーは1位がん、2位心疾患、3位脳血管疾患。私は断言しますけど、これは寿命が延びたからです。だってがんって遺伝子のコピーミスがどんどんどんどん悪い方に走る病気でしょ。長生きするほどリスクが高まるわけですからなりますよ。70年前に医療が帯びていた使命って言うのは、たぶん死ななくていい人を生かす。つまりばい菌から守る、薬を飲ませて感染症を治すっていうことだったんですけど、それがかなった今、ここはみなさんの意見も聞きたいけど、100歳まで生かすっていう方向なのか、幸せにたたませるというか死なせるっていう方法なのか、だんだんやっぱり変わってきていると思うんですよね。
 科学とか技術って100年前はもっと無邪気だったと思うんですよ。空を飛びたいとか、病気で死にたくないとかそういう願いをかなえていくために技術があったり科学の知識があったりして、みなさんがその方がいいよね、という方向性が明確だったと思うんですよ。だけど最低限のニーズが十分満たされたこれからは、単純に白黒つけられないものを科学技術で提供しているような気がするんですよ。
 これもやっぱり医療の役割ですけど、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を保ちながら、充実して人生をおしまいって言えるような医療とかそういうことも考えてほしいですよね。再生医療はもちろん有効ですから、部品を取り換えるように、ある程度の病気は治すっていうふうに医療は進んでほしいと思いますけれども、ずっと進み続けてもそれこそ別の不幸せが生まれてくるかもしれないので、そっちの人生をしまう方の技術とか社会制度っていうのもあってほしいと思います。

元村

 地球がいま大変なことになっているので、地球のことも考えませんか。

櫻井

 新聞に載ってましたけど、熱中症で搬送された人が先週1週間で7338人。亡くなる数だって相当多いでしょう。

元村

 去年の夏だけで1500人の方が熱中症で亡くなっています。いま二酸化炭素を削減しようっていうことで一生懸命やっているのは、今世紀末の温度上昇を2度に抑えようと頑張っているんですね。できれば1.5度に抑えようってやっているんです。1.5度くらいいいじゃないって思いませんか。でも1.5度、たとえば地球の平均気温が高くなると、それこそ海水面は1メートルとか2メートルとか上がって、住めなくなる島が出てきたり、東京なんかゼロメートル地帯がすごく多いんで、簡単なことで高潮、満潮のときに海水が流れ込むとかそういうことが普通に起きてきますよね。
 台風が大型化するとか集中豪雨の頻度が上がるとか、寒いのも暑いのも極端になると言われている。ほんとにたくさんの人が困ることになるというのはたぶん確実な未来ですよね。地球をこんなにも変えたのはおじいちゃんの世代、親の世代、私たちの世代ですから、じゃあ3世代のうちにまた元に戻すっていう気持ちをやっぱりどれだけ強く持つかですよね。

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