毎日・世論フォーラム
第319回
2019年6月18日
作家・元外務省主任分析官 佐藤 優

テーマ
「G20開催と日本を取り巻く国際情勢」

会場:ソラリア西鉄ホテル福岡

G20
多国間協議から
2国間協議を注視

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官
佐藤 優 氏

プロフィール

佐藤 優
(さとう すぐる)

1960(昭和35)年生れ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英日本国大使館、ロシア連邦日本国大使館などを経て、95年から外務本省国際情報局分析第一課に勤務。02年背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。05年執行猶予付き有罪判決を受け、13年執行猶予期間を満了。05年『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞した。主な著書に『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞)、『国家の謀略』『高畠素之の亡霊』などがある。

 第319回例会は、作家・元外務省主任分析官、佐藤 優が「G20開催と日本を取り巻く国際情勢」と題し講演した。会員180人が参加した。佐藤氏は現在の国際情勢について、主要20カ国・地域(G20)の多国間協議の影響力が小さくなり、2国間のやりとりから全体を見る必要があるとした。イラン問題では、石油利権を手放さない米国と地域で影響力を増すイランの対立が根底だと解説。ホルムズ海峡付近で日本の会社のタンカーなどが攻撃された事件について「攻撃による利益はなく、イランがやった可能性は低い」と述べた。日韓関係については、元徴用工問題などであつれきが絶えない背景に「韓国の国力増強がある」と分析した。講演要旨は次の通り。

 G20開催と日本を取り巻く国際情勢だが、G20の意義は少なくなっている。国連、G7、G20など多国間の枠組みで外交が決まる時代とそれぞれの国で決まる時代があり、これが振り子のように揺れる。今はG20の各国は自分たちの利害だけを考えている。だから米中も日韓も日ロも米ロも重要。組み合わせが山ほどあるから、全部を説明することはできない。だからポイントをつかむ必要がある。
 米国の実情をみると、トランプ大統領がやっているのは一言でいうとリストラ。リストラは体力が残っていないとできないが、米国はまだ体力ある。たとえば米国以外の中国、ロシア、インド、日本が連合軍を作って米国と戦争しても、米国の軍事力は圧倒的。経済に関しても、ドルが基軸通貨である強さは桁違いなものがある。ただ、その米国でもアフガニスタンを平定できなかったし、シリア、イラクだってできなかった。米国がやろうとしているのは、基本的には中東のリストラ。シリアから手を引くのはなぜか?それは油がとれないから。しかし油が取れるイランは手放さない。イランの宗教はシーア派で宗教を背景にイランやサウジアラビア、アラブ首長国連邦など地域に影響力を強めている。このままだと、中東の石油の多くがイランの影響下に入る可能性があり、トランプはこれが許せない。米国にとって重要な権益だからだ。去年、米国がイランとの核合意から離脱することで緊張が高まった。そうしたなか、先日安倍首相がイランに行った。イランで実権を握るのは大統領でなく最高指導者のハメネイ。そのハメネイと直接会ってトランプのメッセージを渡し、ハメネイから「核で事態を激化させることを考えていない」という言葉を引き出したのは外交的には成功だ。同じ日に日本などのタンカーが攻撃を受けたが、イランが得られる利益はなく関与していないと思う。
 日ロ関係について。6月29日に日露首脳会談があると発表されているが、私は北方領土の全面解決にならないと思う。ただ領土問題の解決は可能と考えている。去年11月にシンガポールであった日ロ首脳会談で1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約交渉を加速化すると合意をした。どういう意味か。日本は1951年のサンフランシスコ平和条約で南樺太と千島列島を放棄したが、千島列島について当時の外務省の条約局長は「南千島も含まれる」との見解を示している。最初から日本は歯舞群島と色丹島しか要求してない。ただソ連はサンフランシスコ平和条約に署名していなかったから、日本はソ連に国後島、択捉島を含めた4島の返還を求めた。なぜそんな無理筋な要求をしたかというと、米国が沖縄に居座っているなか、2島返還でソ連と平和条約を結べば世論は米国よりソ連の方がいいということになる。日本が社会主義化することを当時の政府が恐れ、ソ連が交渉に乗ってこないよう4島一括返還を求めた。しかし冷戦が終わったのだから、1956年宣言をベースにするのは一つの考え方だ。安倍政権がやろうとしていることは、歯舞群島、色丹島の返還を実現させ、国後島と択捉島はロシアの主権下に置くが、歴史的に日本人が国後島、択捉島に住んでいたという経緯があり、日本人が簡易な措置で国後、択捉に行けて経済活動ができるような特別な措置を作ることだ。そういう意味では安倍外交は長くやっているだけあって安定的。だから北朝鮮とも前提条件をつけずに拉致問題を話し合う仕組みを作ろうとなった。拉致問題の解決の道筋が見えなくても日朝正常化もあり得るし、安倍首相もまずは金正恩と会おうとなっている。この先、今までと同じ事をしても拉致問題で前進は期待できないのが現実。平壌に窓口を作って日本の外交官が情報を収集して北朝鮮との関係を強化すれば、糸口が得られるかもしれない。そこから生きている拉致被害者を日本に連れ戻すことができるかもしれない。私はこれは現実的なアプローチと思う。
 日韓関係について言えばこれからも厳しくなる。元徴用工問題や自衛隊機へのレーダー照射問題などが原因で日韓関係が悪くなっているように見えるが、この見方は私は間違っていると思う。日韓関係が悪くなった結果、こういうことが立て続けに起きている。根っこは韓国の国力がついていることだ。1965年に日韓基本条約を結んだ時、韓国の一人当たりGNPは数十ドルだったと思うが、2017年の韓国の一人当たりGDPは3万ドル。中国は8800ドルで、日本は4万ドル。日本に来る韓国人はなぜこの程度の国に押さえつけられてきたのかと思う。そして、今の韓国の実力に合わせた形でルールを作り直そうと韓国は思っている。韓国の国力はますます伸びる。財閥主導で極端に新自由主義的なやり方だが、激しい競争のなかで国力が向上しているのは間違いない。韓国との関係を抜本的に解決するには、我々が若い世代の教育を立て直して国際基準で戦えるようにすることが重要。近未来で韓国とさまざまなルールの仕切り直しが生じて日本はかなり押さえ込まれるだろう。

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