毎日・世論フォーラム
第348回
2022年12月22日
SHIBUYA109 lab.所長 長田 麻衣

テーマ
「Z世代との向き合い方」

会場:西鉄グランドホテル

「固定観念押しつけず「個」に向き合おう」

長田 麻衣 SHIBUYA109 lab.所長
長田 麻衣 氏

プロフィール

長田 麻衣
(おさだ・まい)

 1991年、東京都出身。総合マーケティング会社で、主に化粧品・食品・玩具メーカーの商品開発やブランディング、ターゲット設定に向けた調査やPRサポートなどの経験を積む。2017年、株式会社SHIBUYA109エンタテイメント入社。SHIBUYA109マーケティング担当としてマーケティング部を立ち上げ、2018年にはSHIBUYA109 lab.を設立。around20(15~24歳の男女)との交流は毎月200人に及び、Z世代の考え方や価値観に詳しい。「SHIBUYA109 lab.所長の#これ知ってないとやばみ」(繊研新聞)の執筆やTBS「ひるおび」のコメンテーター、講演活動、など幅広く活躍している。

 若者の消費行動のマーケティングをしている「SHIBUYA109 lab.」所長の長田(おさだ)麻衣氏が12月22日、福岡市の西鉄グランドホテルで開かれた毎日・世論フォーラム第348回例会で講演。生まれながらにデジタル文化に親しむZ世代(15~24歳の若者)について「性別や世代という固定観念を押しつけず、個に向き合うことが大事だ」と語った。講演要旨は次の通り。
 SHIBUYA109 lab.は、around20という15歳から24歳の人たちの価値観やトレンドを把握し、それを「SHIBUYA109」の事業に生かそうと設立された。around20――Z世代――と直接会って話をすることを通じて若者の「実際」を深掘りし、さまざまな角度から若者を理解していくことを主な目的にしている。
 若者の世代を「ミレニアル世代」「Z世代」と呼ぶことが多い。ミレニアル世代は1981~95年生まれで、Z世代は1996年~2012年までと言われるが、ミレニアル世代とZ世代が全く違うということではなく、グラデーションで価値観が変わっている。私はミレニアル世代だが、Z世代の若者と話していて共感できる事もあるし、逆に、SNSの使い方は、私の世代にはない考え方だな、とか、新しい考え方だな、と思うところもある。ただ、デジタルとの付き合い方では違いを感じる。
 ミレニアル世代は、高校生ぐらいの時からSNSが出てきて、だんだんと使い方を覚えていった「デジタルパイオニア」。Z世代は、生まれたときからデジタル環境が成熟していて、小さい頃からSNSを使って生きている「デジタルネイティブ」。
 デジタルネイティブのZ世代は、スマートフォンやSNSがデフォルト(初期状態)の環境で生まれ育っていて、コミュニティーも、リアルだけでなくデジタルの世界にまで広がっている。これまでは学校の友達などオフラインのコミュニティーが全てだったが、今はSNSで友達を作ったり、恋人を作ったり、といったことも当たり前にしていて、リアルとデジタルを同じものとして捉えている。
 SNSは画像や動画を介したコミュニケーションが主流となっているが、視覚的なもので感じたり共感したりする「コミュニケーションスキル」に長けているのもZ世代の特徴。若者が使っている「エモい」「チルい」という言葉を大人に説明するとき、言語化して(うまく)伝わることはあまりないが、若者に「エモい写真を作ってきて」というと、皆エモい写真を作ってくる。「エモい」が視覚的な共通言語として存在し、それを皆が再現できるようになっている。
 また、周りの目や周囲とのつながりが行動に影響を及ぼしている。調和志向が強く、周りからの見られ方に合わせて消費行動を変える傾向もみられる。周りとの調和を乱さないように自分の個性をまるごととがらせていくような、絶妙なバランスで個性を出していて、他人や自分にいろいろな面や価値観があるのが当たり前だということを前提にコミュニケーションすることが多い。
 Z世代を特徴づける一つが「体験消費」。例えば銀杏並木で写真を撮る時も、その世界観に統一感がある状況を写真に収めたいから、服装を銀杏並木の雰囲気に合うようにするとかして当日を迎える。体験を収める写真から逆算し、準備、消費(買い物)をする。
 消費は堅実・慎重で、衝動買いもしない。自分が価値を感じる物に全力で投資したいという考えがあるからだろう。メリハリの付け方が非常に上手で、限られたお金と時間を、かけるところにはかけ、かけないところには節約をする。また、高すぎる目標にモチベーションを感じるのではなく、身近で、クリアできる課題をたくさんもらうことを好む傾向もある。成長を感じられるし、時代が変わっても適応できる(スキルが身につく)と考えているからのようだ。「ヲタ活」「推し活」など、自分が応援する有名人のために何か貢献したいという意識も高い。
 Z世代の若者は、失敗したくないという考えを持っていて、入念に事前の情報収集をし、堅実に将来を考えている。副業を持つ、リモートワーク、個人事業主になる――など働き方の選択肢があり、仕事とプライベートの両立やバランスの取り方は個人個人で違うよね、という考え方。「1社目はどこに行ったら転職に良い?」と、転職を前提に就職活動をする新卒者もいる。
 彼らとは、性別や世代という固定概念を押しつけず「個」に向き合っていくこと、一つ一つの業務にどういう意味があるのか、それはなぜか、を伝え、併走する感覚で向き合っていくことが重要だろう。(近年の)早期退職の原因には、彼らへの接し方や育成環境もあるのではないか。「説明しなくても分かるだろう」とか「背中を見て育て」みたいな言葉や態度にはモチベーションが上がらないが、今やっている仕事がつながる先や流れを伝えることが、モチベーション維持につながる。
 Z世代にSDG‘Sの中でどの課題に関心があるか、という調査をして1番になったのがジェンダーの平等だった。自分たちがコミュニケーションの中で違和感を感じるところがあるからこそ、この課題に対する関心が高いのだろうと思う。実際、「男なんだから」「女なんだから」「女性でも頑張れるよ」などといった言葉や、(同じ仕事をしているにもかかわらず)男女間に給料差があるというようなことに、若者は違和感を抱いている。また「スタンダードになってほしいこと」を尋ねたら、男らしさ女らしさではなく「自分らしさ」を認めてくれる社会、というのが1位だった。性別や見た目にとらわれず、個人を認める、ということを意識して向き合うことが、ますます大事になるだろう。

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