毎日・世論フォーラム
第345回
2022年9月5日
慶応大総合政策学部長、教授 加茂 具樹

テーマ
「日中関係の今後を読む」

会場:ソラリア西鉄ホテル福岡

「転換点にある日中関係/政治・安全保障の「不一致」前提の共存を」

加茂 具樹 慶応大総合政策学部長、教授
加茂 具樹 氏

プロフィール

加茂 具樹
(かも・ともき)

 1972年生まれ。慶応大総合政策学部卒業。慶応大大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。1995~96年、上海・復旦大学国際文化交流学院に留学。その後、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所現代中国研究センター客員研究員、台湾・國立政治大學國際事務學院客員准教授等を経て2021年から現職。香港の日本総領事館で01~03年に専門調査員、16~18年には領事を務めた。

 慶応大総合政策学部長で教授の加茂具樹(ともき)氏が9月5日、福岡市のソラリア西鉄ホテル福岡で開かれた毎日・世論フォーラム第345回例会で講演。国交正常化から50年となる日中関係の現状を「過去50年の日中関係をかたちづくってきた、政治や経済、国際環境、国民感情といった要素が大きく転換している」と指摘し、今後の 2国間関係について「経済的、人的交流が緊密であったとしても、価値観や安全保障観の相異は埋めがたいという現実をふまえつつ、共通する共益を見出す努力を積み重ね、如何に共存するか、アジアの平和と繁栄を維持するために何をすべきかを考える必要がある」と述べた。また、10月に第20回党大会を予定する中国共産党を「(これまで通り)経済成長を重要な政策課題と位置付け、大会をつうじて、一党支配の正統性を獲得するための戦略を示すだろう」と分析した。講演要旨は次の通り。
 日中関係をどういう枠組みで理解するか。これまでの50年の日中関係は、日中両国とアジア、そして国際社会の平和と繁栄を牽引してきた。この2国間関係をかたちづくってきた、政治や経済、国際環境や国民感情といった様々な要素が、いま、大きく転換している。これからの50年間の日中関係は、これまでの50年間とは大きく異なる姿を示す可能性がある。
 中国の経済的成功は、パワーバランスの変化を牽引し、国際政治の重心は大西洋から太平洋に移ってきた。経済大国として台頭した中国は、近年、外交路線を転換させた。これまでの中国は、既存の国際秩序のなかの「よきプレーヤー」であることを追求していた。しかし、いまは、自身にとって望ましい国際秩序を構築するために、国際秩序の中の「ルールメーカー」としての地位を確立しようとしている。この中国に、私たちは、どう向き合うのか。大きな課題である。
 中国の政治外交を考える際の基本となる論点は、体制の安定と存続にかかわる一党体制の正統性である。歴代の指導部は、経済成長に必要な国内外の環境を整え、(中国の)国民に経済成長という実績を示し、これを踏まえて国民は、共産党による一党支配は自分達の社会にとって必要なものであると認識し、支配への同意を示してきた。
 共産党指導部が向き合う国内環境は大きく変化した。(中国の)国民は、かつてのように物質的な豊かさだけで満足しない。経済発展した中国社会において、人々が満足に思うもの、幸福に思うもの、安全だと感じるものは多様になった。加えて、高度成長段階を終え、中所得国の罠にも直面しつつある。コロナ感染症の影響で成長は一層に鈍化している。共産党の指導部は、多層化し、様々な価値観を表す社会が納得する政策を見つけ出すためにはどうするか、という難題と向き合っている。
 同様に現指導部が向き合う国際環境も大きく変化した。対米関係は急速に悪化し、米国は中国との関係を「戦略的競争」関係と位置付けている。これは、かつて米国が対ソ戦略として示した概念でもあり、中国は対米関係の悪化を長期的な課題として捉えている。中国は国際的な包囲網のなかにあると理解している。
 こうして現指導部は、自らを取りまく国際情勢と国際情勢が悪化している、と認識している。大きく変化する国内と国際環境によって、指導部は不安全感に囚われている。
 50年間で日中関係を形作ってきた要素が変化している。これまでの日中関係は、善隣友好関係、友好協力パートナーシップ、そして戦略的互恵関係とその名称を変えてきた。いま、日中関係を説明するキーワード探しがはじまっている。
 国交正常化当時の日本と中国は、安全保障上の脅威認識を共有していたといってもよい。ところが、今は日中関係を取りまく環境が大きく変化し、日中関係は安全保障のジレンマに囚われている。日本国民の中国への認識は悪化し、中国側でも年々悪化している。日中相互の安全保障上の不信感をどう克服していくのかが課題になる。
 日本は、日米同盟の強化を前提としつつ、対中関係もまた厚みのあるものにしてゆかなければならない。日本と中国の間には、価値観の不一致や安全保障観の不一致が存在している。ただし、日本の平和と繁栄を実現するための条件には、中国との安定した関係の構築、という要素もあるはずだ。
 日中関係の行方を考える際、中国の意思決定層とのコミュニケーションをどう維持するかは重要な政策課題といえる。日本の問題意識をどうやって中国の意思決定者に伝達するのか。二つ目は戦略観。かつて日中両国は、戦略的な利益を共有し、50年にもわたって地域と世界の平和と繁栄を牽引する関係を構築した。日中両国は、新たに共有できる戦略的な利益を模索する必要性がある。三つ目は対抗と対話。緊密な経済的交流と人的交流があったとしても、日本と中国との間で、政治的価値観や安全保障観の一致を見出すことは難しいかもしれない。しかし、2国間関係の行方をめぐって絶望し、思考停止することなく、政治と安全保障の認識の不一致を前提としながらも、どうやって共存するのか、日本を含めた東アジアの平和と繁栄を維持するために何をするべきか、という対話をもつ必要性がある。そのために、私たちは日本の平和と繁栄のためにはどの様な秩序が必要なのかを考え、中国とはどのような存在であるのかを理解する。「中国リテラシー」(=中国を読み解く力)を高める必要はますます高まっている。

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