毎日・世論フォーラム
第282回
平成27年11月25日
公明党代表 山口 那津男

テーマ
「直面する重要政治課題」

会場:ソラリア西鉄ホテル

軽減税率、加工食品も加えるべき

山口 那津男 公明党代表
山口 那津男 氏

プロフィール

山口 那津男
(やまぐち なつお)

1952年生まれ。茨城県出身。78年、東京大学法学部卒業。79年、司法試験合格。司法修習34期で同期に谷垣禎一・前自民党総裁、千葉景子・元法務大臣らがいた。09年9月、太田昭宏前代表の後を受けて、公明党代表に就任した。「至誠一貫」。水戸一校の校是を大切にしている。

 第282回例会は、公明党の山口那津男代表が「直面する重要政治課題」と題し講演、会員150名が参加した。消費税の軽減税率を巡り自民党の谷垣禎一幹事長らが安倍晋三首相から財源は4000億円が上限との指示を受けたとしていることに関し、「私自身、首相から何も聞いていない。具体的指示を出すなら公明党に何の相談もなく行うことは考えられない」と述べ、自民党執行部への不信感をあらわにした。山口氏は「自民党は(4000億円で収まる)生鮮食品を対象にと言っているが、我々はそれでは軽減税率の意味がないと言っている。大部分の国民が日常生活で加工品に頼っている」と語り、加工食品も軽減対象とするよう重ねて主張した。加工食品を加えた場合、財源は1兆円規模に上るが、「アベノミクスを進めることで税収は増えている」と指摘し、財政健全化に影響なく軽減対象を広げられるとの考えを示した。一方、地域政党「大阪維新の会」が2勝した大阪府知事・市長のダブル選について、「公明支持層は7割が自民推薦候補に投票したが、自民は(投票先が維新の候補と)二つに割れた」と指摘。敗因を自主投票で臨んだ公明党に求める声が自民党の一部にあることをけん制した。講演要旨は次の通り。

 大阪でダブル選挙があり、大阪維新の会の候補が知事選も市長選も勝利した。これはローカルな現象にすぎないとの見方もあるし、国会議員が所属する政治集団だから、国政にも影響すると見る向きもある。大阪では経済や文化、政治の軸がどんどん東京へ移ることへの危機感が強かったのだろう。同様に全国の中心都市や地域でも課題がある。どうやって地方創生を進め、バランスのとれた地域社会を作るのか。共通課題もあろうかと思うので、今後も取り組んでいきたい。
 自公連立政権のアベノミクス第1弾で、雇用が生まれるなど効果が着実に現れてきているが、中小企業や地方、家計にはまだ浸透していない。そのため新しい3本の矢を射て、2020年までに名目GDP600兆円を目指す。これは決して不可能な目標ではない。具体的な中身として1億総活躍社会、希望出生率1・8、介護離職ゼロがある。女性の活躍と子育ての両立、介護や高齢化への対応の充実がこれからの経済成長のベースとなる。
 2015年度補正予算に盛り込む重要テーマがTPP(環太平洋パートナーシップ協定)だ。大局的に見れば加盟12カ国のメリットは大きいが、農業などで懸念もあり、いかに克服するかが重要だ。一方で、TPPには、アメリカが「アジア太平洋に関与する」とメッセージを伝える重要な意味もある。批准、国会承認手続きと効力を発するまで時間がかかるので、その間にメリットとデメリットを説明し、手を打つべきところは先手を打っていく。
 TPPは、懸念を持つ農業分野の方にとっても、競争力を高めるというチャンスの面もある。福岡県は農業も非常に盛んで、国内でも競争力を持つ品物がたくさんある。もっと海外で勝負できるように、国外市場参入の垣根を低くする取り組みも大事だ。
 外交安全保障の問題では、パリで同時多発テロが起きた。日本は来年のG7サミット(主要7カ国首脳会議)の主催者として「テロを許さない」という立場で重層的な安全対策をすべきだ。これに関連して重大犯罪を謀議の段階で罪に問える「共謀罪」の新設が必要と主張する政治家もいる。しかしサミットのために国会が対応できるかと言うと、困難だ。もう少し長い目で慎重に検討すべきテーマだ。
 みなさんの関心が高い軽減税率の問題がある。2014年衆院選の与党共通公約に「軽減税率を導入する」とあった。選挙後は、新たに政権合意を結んで導入をうたい、税制大綱でも政府与党の約束として固めた。「軽減税率はやらなくていい」「他の手段がある」と、とぼけたことを言う人もいるが、これは国民への公約である。今、与党で議論しているが、消費税率10%への引き上げに間に合わせようという指示なので時間が十分ではない。自民党は「生鮮食品が対象」と言っている。しかし、大部分の国民が日常生活は弁当など加工品に頼っているのが実態だ。所得の低い人ほどその傾向が強い。自分で生鮮品を買って素材を調理する余裕が乏しい人もいるかもしれない。消費活動を控えなくても安心して生活できる。このことが、軽減税率導入の本来の目的と考えた場合、間口は広くとるべきだ。
 財源をどうするか。財務省は、消費税率10%で入る税収のうち2・8兆円は社会保障充実のために使い、7・3兆円を財政健全化に使うと言っている。しかし、税収増は社会保障の充実に充て、財政再建は税収構造全体で検討すべきだ。アベノミクスで税収が増えている部分もある。社会保障の充実と強化の部分を縮めようというのは本末転倒だ。
 いずれにしても、国民の期待と違うような制度設計では、何のためにやったのかと疑われかねない。しかし社会保障の財源、財政健全化、これも追求しなければならない目標だ。その中で私は最終的には大局的な立場での政治判断が必要だと思う。

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