毎日・世論フォーラム
第278回
平成27年7月17日
毎日新聞特別顧問 松田 喬和

テーマ
「安保法制と安倍政権のゆくえ」

会場:ホテルオークラ福岡

次世代リーダー、自民育成できず

松田 喬和 毎日新聞特別顧問
松田 喬和 氏

プロフィール

松田 喬和
(まつだ たかかず)

1945年9月群馬県出身、69歳。69年毎日新聞社入社。福島支局、東京本社社会部の後、74年から政治部。「サンデー毎日」編集部、政治部デスク、99年から論説委員。2004年4月から論説室専門編集委員。14年4月から特別顧問。09年9月、民主党政権下で首相番を務め、「松田喬和の首相番日誌」を自民党の政権復帰まで連載した。TBSテレビ「ひるおび」の政治コメンテーターやBS11「インサイドアウト」コメンテーターも務める。

 278回例会は、松田喬和・毎日新聞特別顧問が「安保法制と安倍政権のゆくえ」と題して講演、会員110名が参加した。衆院での安全保障関連法案の強行採決を巡って自民党内で異論が出てこない現状について「党内から多様性が失われ、次のリーダーを育成できなくなっている。政治家の劣化は日本の危機であり、国全体の劣化を招く」と述べた。一方で、安倍晋三首相が9月の自民党総裁選で再選されれば、2018年までの長期政権になるとの見方も示し、「安倍さんが一回り大きくなるかは異論を持っている人を使いこなせるかだ」と語った。講演要旨は次の通り。

 政治家と政治の劣化が進んでいると非常に危惧している。そういう中で7月16日、安全保障関連法案が衆院を通過した。これからどういう展開になるかを中心に話したい。劣化の具体例と言えば、新国立競技場のデザイン問題をここまで放置したこともそうだ。世論調査で国民が不愉快に思っていると気づき慌てて動く。今の政治の象徴的な話だろう。
 大きな問題が起きているのに、自民党内からほとんど異論が出てこない。意見するとプレッシャーがかかるので現役議員は黙っている。議員バッジを外した人が見かねて異論をぶち上げているが、多様性が失われ、つまらない政党になったと感じる。
 次のリーダーを育てるシステムがないことも大きな問題だ。安倍政権は、9月の党総裁選を乗り切れば2018年まで続く長期政権になるだろう。中曽根政権、小泉政権など過去の長期政権は、後継者を競わせながら安定基盤を作ってきた。ところが安倍政権では、安倍首相と争った石破茂氏らが台頭しきれない。有力な「ポスト安倍」不在の異例の長期政権になるのか。それとも、現政権が言われるほど長期にならないのか。そのどちらかではないか。
 安倍政権の強さの一つは支持率の高さだった。しかし、ここにきて毎日新聞などの世論調査で支持率が下がり始め、「支持しない」が増えている。そのため安倍首相も国民の声に耳を傾けなければならなくなった。選挙結果を左右する無党派層を引きつけるには、高い人気の党首を担ぐ必要がある。これが今までは安倍首相にプラスに働いてきたが、これからどうなるのか。
 次期総裁選を巡り「首相の無投票再選でいいか」という空気が出始めた時に、「支持」と「不支持」の逆転が起きた。安保法案で少し雲行きが変わり、石破氏が「法案の国民理解が進んでいるとは言えない」と発言した、ただ、その発言一つで石破氏が出馬できる状況かというと、まだ即断はできない。残念ながら今の政治には、長期的に戦略を立てる発想がない。優秀な人はいるが対症療法をするだけ。田中角栄元首相の「列島改造論」みたいなものを打ち上げる人はいなくなった。日本全体が内向きに縮小し、政治家もその傾向が強まっている。政治家の劣化は日本の危機だと思う。
 東アジアで米中対立が深まる中で、中国が軍事力で米国を陵駕する状況もありうる。そのとき日本はどうするのか。安倍首相の根底には「戦勝国」と「敗戦国」の対立概念があるが、アメリカは戦勝国だ。そこは曖昧にしないと、同盟国アメリカを敵に回しかねないのに、安倍首相には大局観があまりにもない。大局観がなければ、それをカバーするブレーンが必要だ。しかし、安倍首相は自分に心地よい話をしてくれるブレーンを抱え込む。リーダーはどんな状況でも平常心を保つべきであり、心の安寧は必要だろう。だからこそ閣僚席からヤジを飛ばすなんて総理大臣のやることではない。国の命運を左右する決断時に「カッときた」では済まないからだ。
 民主党の人材は、自民党にある面では優っているのに育成方針がない。自民党も人材育成システムが崩壊しているが、民主党はそれ以上だ。このことによるリーダー不足は本当に大変だ。最近のリーダーは挫折を知らない世襲議員が多く、迫力に欠ける。ではリーダーをどこで探すのか。今後、女性の活用は政治の分野でもっと進むべきだと思います。
 安倍首相が一回り大きくなれるかは、異論を持つ人を使いこなせるかにかかっている。今は党内で若いリベラルなグループが集まると圧力をかけたりする。本来はいろんな人が党内論議をして、活性化を図るべきだがそれがない。群雄割拠して論戦するという政治状況から遠のいている。しかし、無党派層の動向一つで世の中の空気は変わる。自民党が「また民主党に政権を取られる」というような危機感を持たないと、乗り切れないかもしれないと思う。

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