毎日・世論フォーラム
第277回
平成27年6月15日
前内閣総理大臣 野田 佳彦

テーマ
「野田政権482日とこれからの民主党」

会場:西鉄グランドホテル

安保関連法案
「自衛官のリスクを明確に」

野田 佳彦 前内閣総理大臣
野田 佳彦 氏

プロフィール

野田 佳彦
(のだ よしひこ)

1957年千葉県船橋市生まれ58歳。80年早稲田大学政経学部卒業。93年衆議院議員に初当選、現在7期目。93年の衆院選に日本新党から出馬して初当選。新進党を経て民主党。国会対策委員長、幹事長など党の要職を歴任。財務副大臣、副総理兼財務相、首相。12年11月の党首討論で自民党安倍総裁に対し「議員定数削減を約束するなら衆議院を解散する」と宣言、解散総選挙を受け総辞職した。社会保障・税一体改革と議員定数削減に道筋をつける。在任期間は民主党の首相として最長の482日。

 第277回例会は、前首相の野田佳彦前首相が「野田政権482日とこれからの民主党」と題して講演、会員150名が参加した。安全保障関連法案について「自衛隊の活動領域が広がれば、自衛隊員にリスクがあるのは当たり前だ。なぜ安倍晋三首相はリスクを明確に語らないのか。最高指揮官の王道から外れている」と批判。 政府が集団的自衛権の行使事例として想定するホルムズ海峡での機雷掃海に関しては「機雷を誰がばらまくのか。イスラム過激派は海軍を持たず、リアリティーがない。国民を説得するのは無理があり、法案はやり直したほうがいい」と指摘した。また、安倍首相が夏に発表する予定の戦後70年談話を巡って「戦後70周年でロシアや中国がイベントをやろうとしている。あえて戦後の国際秩序に反旗を翻すようなイメージは作らないほうがいい。サッカーのオフサイドトラップにわざわざひっかかることはない」と疑問を示した。講演要旨は次の通り。

 社会保障と税の一体改革は、私の政治生命をかけた改革だった。民主党が割れて2012年の解散総選挙で負ける要因になったが、社会保障を支えるお金は消費税しかないと思った。選挙を考えると国民に負担をお願いするのは厳しいが、私は次の選挙より次の世代を考えた。その結果、敗軍の将となったが、評価は歴史にゆだねたい。もう一つ、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)では、交渉参加に向けて協議するという政治判断をした。日本の人口は減り、内需拡大は限界がある。外に果敢に攻め、適正なルールの下、世界で稼ぐ工夫も必要です。私には、アジア太平洋の時代のルールを日米が共同して作り、「太平洋憲章」にするという外交戦略があった。そのスタートがTPPだった。
 外交、安全保障で大事にしたのは領土領海です。日本の排他的経済水域は体積で世界3番目。海には鉱物資源が眠っており、これを守らなければならないが、他国も察知しているから摩擦がおこる。その中で尖閣諸島を国有化した。2012年4月、当時の石原都知事がワシントンで「尖閣を都が買い取る」と発言した。都が現状を変えれば、領有権を巡る主張が違う国との摩擦を極度に高める可能性があり、国有化に踏み切った。対中関係が冷え込むきっかけになったが、やらないといけなかった。領土領海の問題は100対ゼロで勝つことはない。51対49の2ポイント差で国益を前進させる。後はほふく前進でハレーションを避けながら次の国益を実現する。それが現実的だ。日本は冷徹なリアリズムにのっとった外交をしなければいけない。
 今年は戦後70周年。ロシアや中国、韓国がイベントをやろうとしている時、あえて戦後の国際秩序に反旗を翻すようなイメージは作らないほうがいい。安全保障の現実は議論すべきだが、余計なことを理念的にしゃべり、「日本は右に傾きすぎている」と思わせるのはよくない。なぜ戦後70年談話を出すのか。80年、90年も出すのか。国際社会に非難されやすいことをあえてやるのは、サッカーでオフサイドトラップにひっかかるようなものだ。
 安全保障議論で安倍晋三首相はなぜ、堂々と説明をしないのか。自衛隊のリスクを明確に語らないのは最高指揮官としておかしく、王道から外れている。さらに、なぜ万が一の事例がホルムズ海峡なのか。イラン、サウジアラビア、オマーンは機雷をばらまかないだろう。イスラム過激派に海軍はなく、現実味がない。その上、学者が違憲だというと、「憲法学者がおかしい」、自民OBが異なる意見を言うと、「元国会議員だから」と切り捨てる。今の政権は、誰の意見もまじめに受けとめようとしない。こういう了見の狭いやり方で国民を説得するのは無理がある。もう一回やり直したほうがいい。覇道ではだめ。王道で行かないと。
 福岡にアベノミクスは届いていますか。安倍首相は英語でABE。ASSET・BUBBLE・ECONOMYを象徴している。今は日銀が国債を買い、お金を流している。どこかで止めないといけないが、止めるのは難しい。何よりも問題はこれがトリクルダウンの経済理論というところだ。高度成長期や新興国はそれでいいが、低成長やマイナスの時はコップに注いでも、潤うのは大企業や資産家。したたり落ちるのを下で待っている人たちとの格差が広がる。
 日本の相対的貧困率は16%を超え、世界の中でアメリカに次ぐ2位です。中間層からこぼれ落ちる人が増えている。上からコップにお酒をたらすマクロ経済政策だけでなく、こぼれ落ちそうな人たちを支える社会政策が大事だ。民主党の役割はそこにある。急に力を取り戻すことはできないが、党が必要となる時が必ずある。私は「アイムノットアベ」です。もっと社会政策に力を入れて国力を増す努力をしないといけない。外交、安全保障政策も同じで、冷静に国益を追求する政治を目指さなければいけない。その意味でも「アイムノットアベ」と考えています。

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