地方創生担当大臣
石破 茂 氏
プロフィール
石破 茂
(いしば しげる)
1957年2月、鳥取県出身の58歳。79年3月、慶應義塾大学法学部卒業。同年4月、三井銀行(現三井住友銀行)に入社。83年同行退社し、木曜クラブ(旧田中派)事務局に入り、翌年まで勤務して退職した。政界に進出したのは、86年の衆議院総選挙。鳥取全県区(現在は1区)から自民党公認で出馬、初当選した。以来、当選10回。12年9月、自民党総裁選挙に出馬。決選投票で安倍晋三現首相に19票差で敗れたが、党員票で過半数を集め自民党内での存在感を高めた。安倍新総裁の下で幹事長。14年9月の第2次安倍改造内閣では、国務大臣(地方創生・国家戦略特別区域担当)に任命された。
第276回例会は、石破茂・地方創生担当相が「地方創生と我が国の未来」と題し講演、会員270人が参加した。地方創生について石破氏は、「今回失敗したら、この国は終わり。本気で取り組まない自治体には(財政、情報、人材の)支援はしない」と述べ、全国の自治体が今年度中に策定する地方版総合戦略に積極的に取り組むよう求めた。また、「目標が達成できなくても誰も責任をとらないようなものは計画ではない」と指摘。地域の企業間取引や人口動態などのビッグデータを活用する政府の「地域経済分析システム」を挙げ、「今まで行政は経験と勘だけで政策を作ってきた。今後はきちんとしたデータに基づいて議論すべきだ」と述べた。講演要旨は次の通り。
地方創生という言葉がはやり言葉になりました。今までも地方の発展策をやってきたが、今回は何が違うのか。「これをやり損なうと日本国が終わる」という強い危機感で私どもは臨んでいる。危機感が全然違う。また、今回の主役は国でなく、全国1718市町村だ。国はビジョンを示し、本当に取り組む自治体を財政面などで支援するが、本気でないところは支援しかねる。
かつて若い世代は製造業や公共事業で働いていたが、今は医療や介護にたくさん従事している。だが、これから地方では、高齢者の数が頭打ちして減り始める。医療、介護職の人たちは職場を失う。
昭和30年から15年間に地方から500万人が東京に移動した。昭和30年に15歳で東京に移り住んだ人が今年、後期高齢者になる。昭和30年から45年までの間に東京で起きた人口激増が、今度は高齢者版で起こる。職場が無い地方から東京に向けて、若者の大人口移動が起こる。本当にそれでいいのか。人材も、食料も、エネルギーも、地方が提供する。地方がこのまま衰退すれば日本は一体どうなるのか。
地方創生法のポイントはたった一つ。来年3月31日までに全市町村と47都道府県に、この先5年間でそれぞれどうするかという計画を作ってもらう。やりたくないところは、やらなくて結構だ。「昔から計画を作っている」と言う声もあるだろう。確かに、どの市町村でも「第何次何カ年計画」がある。だが市民が中身を知っているだろうか。達成、未達成の責任を誰もとらない。そんなものは計画ではない。
今度の「地方版総合戦略」と呼ばれる計画作りで政府は三つお願いしている。一つは「産官学金労言」の参画だ。「産」は商工会議所、JA、建設業協会などの地元産業。「官」は行政。「学」は九州大学など地元で学問に携わる人たち。「金」は地域の金融機関。国からの補助金が途絶えたら事業が終わるのか、その後もビジネスとして動くかは、金融機関の知恵がなければ分からない。必ず地銀、地方の信用金庫に参画してもらう。「労」は連合、労働組合。これから先は、働き方を変えなければどうにもならない。「言」は福岡にあるテレビ局、新聞社、ラジオ。一緒になって計画を作ってください。福岡がどんなところかを知らせるには、メディアが関わらないといけない。こうすべき、ああすべき、という意見は放送したり、記事を書くだけでなく、共に作ってもらわなければならない。
もう一つのお願いは、何を実現するかの数値目標を決めてもらう。観光客の数でもいい。出生率でもいい。KPI(政策成果目標)をしっかりと決める。3番目は企画立案、行動、実行、点検、改善のPDCAのサイクルを回すこと。これを全市町村にお願いした。「できるわけない」というところと、「やろう」というところは歴然と差が出る。「最後は国が面倒を見てくれる」「外部のコンサルタントに出そう」というのはすぐにばれる。
九州をあちこち回った。鹿児島県鹿屋市の柳谷町内会、通称「やねだん」は、景色が綺麗でもなく、目立った産業もないが、「何とかしよう」と努力して集落再生のモデルになった。鉄道や航空路線が発達すれば人が来るのではない。でも、本物は必ず人を呼ぶ。JR九州のクルーズ列車「ななつ星in九州」はすごい。九州で一番の米、野菜、肉、魚、果物を出す。そして、九州で一番の調理人が作る。知恵を出し合い、取り組めば地方は必ず元気になる。
国としてはホームページなどを通じて、いろいろな情報を全ての人に提供している。人、金、モノはどこから入り、どこへ出て行くのか。何歳ぐらいの男女が、どこへ出て行くのか。それが分からなければ対策の打ちようがない。行政だけでなく、納税者である市民がきちんとしたデータを基に議論をするという地方自治があってしかるべきだ。そして努力したところはさらに伸びるべき。努力しないところは変わるべき。私はそれが今の日本に必要だと思っている。