毎日・世論フォーラム
第300回
平成29年9月13日
自民党元幹事長 石破 茂
毎日新聞特別編集委員 山田 孝男

テーマ
「時代の論点~これからの25年~」

会場:ホテルニューオータニ博多

「核の傘、実効性確認を」
石破氏が強調

石破 茂 自民党元幹事長
石破 茂 氏

プロフィール

石破 茂
(いしば しげる)

1957年2月、鳥取県出身の60歳。79年3月、慶應義塾大学法学部卒業。同年4月、三井銀行(現三井住友銀行)に入社。86年の衆議院総選挙。鳥取全県区(現在は1区)から自民党公認で出馬、初当選した。以来、当選10回。12年9月、自民党総裁選挙に出馬。決選投票で安倍晋三現首相に19票差で敗れたが、党員票で過半数を集め自民党内での存在感を高めた。安倍新総裁の下で幹事長。14年9月の第2次安倍改造内閣では、国務大臣(地方創生・国家戦略特別区域担当)を務めた。『ポスト安倍』の次期自民党総裁有力候補と目される中、政権課題に対し踏み込んだ発言と石破派の動きに注目が集まる。

山田 孝男 毎日新聞特別編集委員
山田 孝男 氏

プロフィール

山田 孝男
(やまだ たかお)

1952年3月東京都生まれ、62 歳。早稲田大学卒。1975年毎日新聞社入社。長崎支局を振り出しに、東京本社社会部などを経て84年から政治部。福島支局次長、政治部長、編集局次長、編集局総務を経て、2007年10月から政治部専門編集委員、同年12月から月曜朝刊コラム「風知草」を連載。2014年4月から政治部特別編集委員。著書に小泉元首相の独占インタビューをまとめた『小泉純一郎の「原発ゼロ」』

 毎日・世論フォーラムは1992年1月に始まり、ほぼ毎月、政財官界の要人らを招いて講演会を開いてきた。今年創設25年周年を迎え、今回の講演例会で300回を数えた。300回の記念例会として、自民党の石破茂元幹事長を招き、「時代の論点」をテーマに、安倍政権の下、トランプ米大統領、北朝鮮情勢など国内外の課題について講演、会員200人が熱心に聞き入った。また、講演後半は毎日新聞の山田孝男特別編集委員との対談形式で論議を深めた。
 石破氏はテレビ朝日の6日の番組で非核三原則のうち核兵器を「持ち込ませず」に疑問を呈したことについて、「作らず、持たずはいいが、持ち込ませずは本当にいいのかを議論しようと言った」と説明。「米国の核の傘の有効性、実効性を常に確認しておくのが政府の責任だ」と強調した。また、憲法9条第1項と第2項を維持しつつ自衛隊の存在を明記する安倍晋三首相の提案に「国家の独立を守るために軍隊は必要。国権の発動たる戦争とは何か、戦力とは何かをきちんと定義しないで、この話をしてはいけない」と反論。第2項の見直しが必要という認識を重ねて示した。

 対談では、山田編集委員が「自民党石破派の所属議員は20人で、首相の出身派閥の細田派と大きな開きがあるが」との問いに、石破氏は「ベンチャー企業だ。それなりの苦労はあるが、そういうものが世の中を変えるという気概を持っていきたい」と「ポスト安倍」に意欲をみせた。講演要旨は次の通り。

 私はこの国をサスティナブルでインディペンデントな国にしたいと思っている。持続可能性ある独立した国家ということ。来年は明治150年。明治維新以来50年に一回新しい国を作ってきた。第一次世界大戦が終わって50年、次の50年は戦争と敗戦、経済復興の50年。GNPが世界第2位になったところで100年。来年150年。直近の50年間、我々は新しい国を作ろうとしてきただろうか。ともすれば、遺産を食い、次の時代につけをのこしていないか。
 これから来る50年どうするかが課題だ。地方創生大臣をやった。このままの出生死亡の数だと西暦2100年、日本人は5200万人。300年で423万人。たった83年で日本人は5200万人に減る。若い人が少なくてシニアが増える。どうやって財政を維持するのか。社保を維持するのか。
 国家は領土と国民と統治機構でなりたっている。国家主権は領土、国民、統治機構の3つだ。島一つ失う国はやがて領土すべてを失う。国民1人の命を守れない国はすべての国民を失う。拉致問題とはそういうことだ。国家主権が侵害されている。この国は本当に主権独立国家なのかが問われている。今の憲法は占領下においてできたものだ。国家主権を持っていない時の憲法だ。独立を守る軍隊の規定がなかったのは当然のこと。どんなイデオロギーでも国家の独立を守るために軍隊は必要だ。国家が崩壊したら、基本的人権も言論の自由も信教の自由も保障されない。
 前文、9条。「(国際平和を)誠実に希求する」まではいい。国権の発動たる戦争とはなにか。戦力とはなにか。そういう定義をきちんとしないで、この話をしてはいけない。
 集団的自衛権でアメリカとともに戦争をしようといっているのではない。日本は集団的自衛権がないゆえに、アメリカの基地を義務として置かなければならない。基地は必要だが、義務として有無を言わさずにおくのでいいのか。この基地は縮小していい、日本の基地で代替するという権利がない。これが本当の独立国家か。
 財政、社保、本当にサスティナブルか。50年先の日本に責任を持たないといけない。今それを議論しないでどうする。答えを出さないでどうする。次の時代に対する責務である。
 いつの時代も都が国を変えるのではない。地方だ。国民に政治を信じているという人が少ない。じゃあ、政治は国民を信じているか。これを言えば票が減るといって、本当のことを語らないのは政治家ではない。次の時代に責任を持ちたいと思っている。独立した国で持続可能な国である。そういう問題を考え、答えを出す。皆様方にご議論いただいて答えを出す。

◆山田孝男特別編集委員(=Q)との対談
【Q】安保の専門家の石破さんに聞きたい。今は戦後最大の国難にさしかかっていると思う。ミサイルは迎撃できるのか。命中精度はどうなのか
【A】精度はあがっている。打ち上げたときの角度と炎の強さとスピードで計算すればどういう弧を描いてどこに落ちるかが出る。何時何分何秒にどこに打てば当たると計算上必ず出る。前提条件さえ間違えなければ必ずあたる。アメリカと共同研究・開発で合意したのは今から15年前。私とラムズフェルド長官が調印した。15年かけて相当に精度はあがった。これから先やらないといけないのは、ミサイルが一番弱いのは地球の重力に逆らって上がっている時。一番脆弱なブースト段階でいかに落とすかが次のベースだと思います。
【Q】核武装について。非核三原則見直しに言及しているが。
【A】議論もせずは変だ。我が国政府は核を持つことは憲法に違反するものではないという答弁を日本政府はずっとしている。作って持ったらNPT違反。だけど、持ち込ませずっていうのは本当にいいのか。ドゴールの言葉に同盟はともに戦うことがあってもけして運命はともにしないものだという言葉がある。だから、アメリカがなんと言おうとフランスは核は持った。どういういう道があるのか。答えとしてロジカルに出していかないと国民に対する責務を果たすことにならない。
【Q】朝鮮が核を持った。アメリカが盤石か。守ってくれるのか。
【A】トランプは歴代大統領と違う価値判断をするのではないかということをわれわれは認識して置いた方がいいと思う。就任演説を読んでいると、歴代大統領が言った自由、人権、民主主義がほとんどでてこない。損か得か。だとすれば、日本を守った方が得だよねという状況をどうやってつくるかということに我々は努力しなければならないと思う。つまり同盟には見捨てられる恐怖と巻き込まれる恐怖の相克の中でマネージメントしていくものだ。日本は巻き込まれる恐怖の話ばかりするば、見捨てられる恐怖っていうのは語られたことがない。もうアメリカは世界戦略なんかやらないという。ハワイを境にしてこっちアメリカこっち中国こっちお互いにうまくやろうぜみたいなことを本気でいったわけです。彼は。そうすると今の南西諸島をどう考えるか。朝鮮半島は今休戦状態だがこれが戦争が終わったとなると在韓米軍は撤退。国連軍も。そうすると日本の状況はどうなるのか。アメリカはどうすれば得だと判断するのか、それが日本の平和主義と背馳しないようにどういう理論を作るのか政治の考えることだ。
【Q】トランプはビジネスマン。ディールというが、ディールできるリアリストかどうしようもないのか。
【A】非常にビジネスマンとして有能な人だと思う。
【Q】キューバ危機になぞらえる人がいる。ケネディはいかに戦争が情報の誤算の集積で起きるかという本を読んだ。誤算や過信が出てきそうな政権だと思うが。
【A】歴史に対する教養がトランプにどれだけあるか知らない。少なくとも我々は考えられるありとあらゆるケースを常に想起しなければならない。どういう法律でどの装備使ってどのオペレーションをやるか、それは常に頭使って訓練しておかないと大変なことになる。

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