毎日・世論フォーラム
第297回
平成29年5月17日
自民党副総裁 高村 正彦

テーマ
「最近の内外情勢」

会場:ソラリア西鉄ホテル

憲法明記でも自衛隊役割は不変

高村 正彦 自民党副総裁
高村 正彦 氏

プロフィール

高村 正彦
(こうむら まさひこ)

1942年3月、山口県出身の75歳。65年3月、中央大学法学部を卒業。68年弁護士登録。71年高村正彦法律事務所を開設、自民党労政法曹団幹事として活躍した。旧徳山市長を4期務め、衆議院議員だった父の故・坂彦氏の跡を継いで、80年の衆議院総選挙(山口1区)に出馬、初当選した。経済企画庁長官、外相(2回)、法相、防衛相。野党時代の2012年9月に自民党副総裁に就任。連続在任期間では1位を更新中。以来当選12回。

 第297回例会は、自民党副総裁の高村正彦氏が「最近の内外情勢」と題し講演、会員150名が参加した。高村氏は、安倍晋三首相が「自衛隊」の存在を明記する憲法9条改正を提起したことについて「現行の自衛隊の活動範囲が広がるものではない」と指摘した。改憲で自衛隊の役割が変わるとの見方を否定し、理解を求めた。 また、「憲法違反だというそしりをなくすためにも自衛隊の存在を明記することは必要だ」と指摘。集団的自衛権の行使を限定的に容認した安全保障関連法によって自衛隊の役割は整理されており、「活動範囲は(改憲しても)同じだ」と強調した。さらに「(9条)1項と2項を維持する案はずいぶん抑制的な案だ」と語った。講演要旨は次の通り。

 最近の内外情勢というと北朝鮮は抜きに語れない。北朝鮮は間違いなく不退転の決意でミサイル大国、核大国になるという決意を持ってやっている、とはっきり認識し、なにがなんでも止めないといけない。とめる能力は日本一国にはありません。止める能力があるのはどこか、アメリカと中国だ。アメリカが止めるとなると相当の副作用があり、日本も相当のとばっちりをくう。できれば中国の経済的圧力プラス外交で止めてもらった方が副作用は少ない。今までになく中国は真剣に北に核ミサイル大国になることをとめようとしている、と思う。石炭輸入を全面的に止めた。北にとって、輸出でもっとも大きなものの一つなので、相当な経済的打撃がある。石油も、核実験やったら供給止めると言っているのではないか、と思わせる状況がある。
 5月3日から中国に行き、元外相の唐家セン(とうかせん)と武大偉(ぶだいい)、兪正声(ゆせいせい)と会った。日中友好議連で行ったが、私から北朝鮮の核ミサイル対応、どう止めるか、中国は力を発揮してほしい、世界中が感謝する、と言った。そのうち、かなり機微な話もしてくれた。極めて有意義だった。全体の印象として、アメリカと中国はかなり話している。その上で、中国はかなり北朝鮮に圧力をかけていると感じた。圧力かけないで話し合いをしても、北朝鮮の確固たる意思を変えさせることはできない。
 今でも日本列島手中に収めたミサイルたくさん持っている。これに対して、ミサイル防衛によりイージス艦で止め、パトリオットで止めるという二段階がある。これでどれくらい止められるのか。難しい問題だ。ミサイルにかかるお金より、ミサイル防衛の方がべらぼうにかかる。撃たせない、抑止することがなによりも大切だ。もし撃ったらアメリカにたたきつぶされるぞ、と指導者に思わせ続けないといけない。北が誤解する余地がないほど日米同盟はしっかりする、アメリカは必ず北をたたきつぶす、というメッセージを送り続けないといけない。
 その点で、平和安全法制をやっていて本当によかった。トランプさんとの関係でもよかった。せめて日本は、日米安保条約で活動しているアメリカの艦船くらいは守れ、と。そのくらいは当たり前だと思うから平和安全法制をやって、半島有事のときに条約にもとづいて活動中の米艦船を海自が守りますよ、と。これは国際法的には集団的自衛権。そういう範囲内で、集団的自衛権限定的容認をやろう、と。これをやってなかったらトランプを説得できなかったと思う。
 憲法に反するという議論があったが、憲法の番人は最高裁。最高裁が自衛権についてなんと言っているか。昭和34年の砂川判決において、国の存立を全うするために必要な自衛の措置を講じるとことは国家固有の権能として当然だ、とある。なにが必要な自衛の措置か。それは国会、内閣に委ねる、と書いてある。後段には、国連憲章は個別的、集団的自衛権を加盟国に与えた、とある。  判決の範囲内での解釈変更をして、国会で承認された。それで、アメリカのカール・ビンソンが海自の護衛艦がエスコートして動く。これが世界に発信された。北にしっかり見られた。日米同盟がしっかりしていることを指導者がはっきり認識せざるを得ない。平和安全法制をやってほんとうによかったと思う。
 それから、安倍総裁が5月3日に自民党総裁としての提言をされた。2020年には憲法改正、施行したい、内容は9条1項、2項を維持したまま、3項に自衛隊の存在を明記するということで、自民党内外から反論が出たが、2項削除より、総裁の案はずっと抑制的だ。20年に施行したいというのは野心的で勇気のある発言だと思うが、1項2項を維持し3項に自衛隊明記というのはずいぶん抑制的な案だ。あるいは、自民の改憲草案よありも抑制的だ。理論的には2項削除の方がいいと思う。総裁もたぶん2項削除した方がいい理論的にいいと思っていると思うが、我々は学者をやっているんじゃない。実現してなんぼだ。憲法学者の6~7割が自衛隊は違憲だと、まだ言っている。甘え続けていいのか。甘え続けてはいけないと思う。自衛隊は憲法違反だ、というそしりをなくすためにも自衛隊を明記することは必要なことだと思う。これからも耐えてもらえばいいじゃないか、という、政治家の感性問題ですが、そういう人もいるかもしれないが、総裁も私もそうではない。

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