毎日・世論フォーラム
第298回
平成29年6月20日
前総務事務次官 桜井 俊

テーマ
「ICT×地方創生」

会場:西鉄グランドホテル

「ICT活用し成長を」

桜井 俊 前総務事務次官
桜井 俊 氏

プロフィール

桜井 俊
(さくらい しゅん)

1953年群馬県出まれ、63歳。東大法学部卒。1977年郵政省(現総務省)入省。総務省時代は情報通信分野が長く、NTT再編や携帯電話業界の競争促進などに取り組んだ。2015年に事務次官。退官後、三井住友信託銀行顧問。「毎日ユニバーサル委員会」委員。

 第298回例会は、前総務事務次官で三井住友信託銀行顧問の桜井俊氏が「ICT(情報通信技術)×地方創生」のテーマで講演、会員160人が参加した、桜井氏は「産業分野や地域の暮らしを含めICTを徹底利活用しなければ日本の成長は見込めない」と訴えた。長年、情報通信分野に携わった桜井氏は「少子高齢化が進む中、ICTを活用したまちづくりでイノベーション(技術革新)を起こすことが大事」と指摘。無料Wi-Fi(ワイファイ)整備で観光客を増やすなどした自治体の成功例を挙げ、普及には「自治体が住民にメリットを実感してもらうことが必要だ」と強調した。講演要旨は次の通り。

 今、第4次産業革命の時代を迎えている。狩猟・農業・工業・情報に次いでIOTの時代、AIの時代だ。この時代を私なりに解釈すると、非常にスピードが速い。そしてグローバルに異業種が参入してくる。もう一つの特徴は、データが非常に大きな価値を持つ時代になった。IOTによっていろんな情報が集まり、それをAIで解析し、社会的な課題解決につなげていくという好循環を作っていくことが求められている。
 少子高齢化が急速に進んでいる。各種の公共サービスを今の水準で維持できない時代になっており、各自治体はそういった問題に直面している。国勢調査によると 東京一極集中が加速しており、人口が増えたのは8都県に過ぎない。市町村をみると82%の市町村で人口が減少している。こういう課題にどう取り組んでいくか。ICT×地方創生とあるが、ICTを活用しつつ、まちづくりにおいてイノベーションを起こしていくということが大事だ。雇用、観光、農業、最後にデータということでいくつか事例を紹介したい。
 雇用は徳島県の神山町の例を挙げたい。サテライトオフィスを整備して、ICTを中心としたベンチャー系企業を誘致し成功した。神山町周辺を含めて40社36拠点に進出し60名以上の地元雇用が生じている。神山町では初めて社会増が社会減を上回り、成功事例として注目を浴びている。
 観光・防災は福岡市モデル。福岡市はWi-Fiを徹底して整備し、その上にいろんな観光情報等をのせて大きな観光客数の増加につながったというケースだ。長野県の辰野町は防災情報ステーションを整備してきた。住民が撮ったライブ映像をそのままネットに載せることもできるような簡易なシステムを作ってスマートフォンを配っている。
 農業は塩尻市のケース。あらかじめ土砂災害等のシステムとしてセンサーを組み合わせたシステムを整備しており、それに500万円くらい上乗せをして、イノシシが来たらスマホに教えてくれてセンサーで罠に引っ掛かるというものだ。大変効果があって、被害がゼロになったということで、全国的に非常に普及し始めている。
 オープンデータは福井県鯖江市の例で、自治体の持つデータを活用して使いやすいアプリケ―ションにしている。オープンにできるデータをオープンにして広く自由に利用できるようにして、いろんなアプリが民間企業レベルで開発されている。こういったいろんな良いケースを横展開していくということが課題になっている。そのためにはできるだけ規格化、標準化していくことが必要だ。例えば東京だと、小田急線沿いに待機児童がどのくらいいるかというデータを民間の企業が知りたいと思ったときに、区ごとにデータの規格が違うとそれだけで大変なことになる。
 地方創生×ICTの課題的な話をしてまとめたい。
 一つは自治体が真剣に取り組むことが必要だろう。自治体が積極的なユースケースになることで住民にも活用され、そのメリットが実感できるということがまた更なるICT化につながる。一生懸命取り組んでいるところは、首長をはじめとしたリーダーの意識が高い。
 もう一つはそれをサポートする人材だ。プログラミング教育の話をしたい。プログラミング教育はコンピューターがどう動くかを教えるということだが、我が国では2020年から小学校からプログラミング教育の義務化が始まる。二つの意味で大変大事だろう。
 一つは、いろんなところでICTが使われて社会インフラになっており、それがどうして動いているのかという基本的な事柄を学んでおくというのは非常に大事だ。それからプログラミングは問題設定し、論理展開して解決策を探る。非常に論理的な思考力、創造性に富んでいる。
 問題はインフラだ。教室、学校レベルで言うと6・2人に1人しかパソコンがなく、教室内のWi-Fi整備率はまだ26%。まず環境を整えないと教育もできない。この分野は地域間格差が非常に大きい。東京に集中しており、いろんな所でこれからプログラミング教育の普及をやっていく必要がある。
 経済活動、産業活動もそうだが、地域のいろんな暮らしを含めてICTを徹底利活用していかないと、これから日本は成長していかない。逆にそういうことをやっていけば、いろんなハンディキャップというものはむしろプラスに転じることができるだろう。ぜひ理解とこの分野へのご支援をお願い申し上げたい。

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