毎日・世論フォーラム
第295回
平成29年3月28日
日本総合研究所主席研究員 藻谷 浩介

テーマ
「日中韓米の人口成熟と九州の未来」

会場:西鉄グランドホテル

「高齢化問題は解決できる」

藻谷 浩介 日本総合研究所主席研究員
藻谷 浩介 氏

プロフィール

藻谷 浩介
(もたに こうすけ)

1964年6月、山口県周南市(旧徳山市)生まれ52歳。88年、東京大学法学部卒業後、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。94年、米国コロンビア大学ビジネススクールを卒業しMBA(経営学修士)取得。12年より日本総合研究所主席研究員。平成合併前3200市町村のすべて、海外72ヶ国をほぼ私費で訪問し、地域特性を多面的に把握。00年頃より、地域振興や人口成熟問題に関し精力的に研究・著作・講演を行っている。 著書に『デフレの正体』(角川Oneテーマ21)。13年の第七回新書大賞を受賞した『里山資本主義』(角川Oneテーマ21)など。

 第295回例会は、日本総合研究所の藻谷浩介主席研究員が「日中韓米の人口成熟と九州の未来」と題して講演、会員140人が参加した。藻谷氏は、島根県海士町で高齢化率の上昇が収まる一方、子どもの減少も止まった事例を紹介。「田舎の良さを併せ持ち、お年寄りの増加に対処していける日本が世界で最初に(高齢化の)問題を解決できる」と語った。講演要旨は次の通り。

 殺人は1955年ごろ年3000件あったが、2016年は817件と7割も減少した。アメリカや中国でも同様に犯罪は減っている。一方、国内で増えているのは空き家。東京の空き家率は11%だが82万軒と全国で最も多い。空き家の10軒に1軒が東京にある。売れないのにマンションをたくさん建てたのが原因の一つ。犯罪の減少と空き家の増加は共通の原因があり、それは人口問題だ。
 最近5年間で日本の人口は96万人減った。うち86万人が14歳以下の子ども。15~64歳は450万人も減っている。税金年金を払う現役が450万人減るのは、総人口が100万人減るより深刻な問題と捉えるべき。90年で15~64歳がいなくなってしまう計算だが、日本が消滅するかというとそうではない。65歳以上が5年間で438万人増えている。
 お年寄りが増える一方で現役世代が減ると人手不足になる。人手不足は景気とは関係なく、退職する人が就職する人より多いので起きる問題。若者が就職できても景気は良くならない。払われる給料の総額が減るのでモノが売れなくなる。ただ、福岡のように外国人を受け入れているところは客は減らない。
 福岡の人口は5年間で7万5000人に増えている。さらに驚いたことは、14歳以下の子どもが1万人近く増えている。だが、福岡の問題は65歳以上が5年で24%増えていること。博多の発展とともに団塊の世代が移住してきたので今みな65歳を超えている。首都圏はどうか。5年で人口は51万人増えた。福岡は人口150万人で7万5000人増え、首都圏は人口3500万人で51万人増えている。首都圏は比率で言うと勢いがない。増えているのは65歳以上や75歳以上の高齢者で、首都圏はもはや超高齢化地域。
 一方、中国ではどうか。中国には65歳以上が1億3000万人いるが、40年後には4億人になると推計され、すごい勢いでお年寄りが増えている。同様の傾向はアメリカやシンガポール、韓国、台湾でも起きている。高齢化は日本の話、あるいは田舎の話と思っているかもしれないが、高齢化は都市の話であり、福岡の話であり、中国の話。
 世界で人が減っている時に九州の果てで逆のことが起きている。宮崎県串間市。先に過疎になって人口が減っている町ではもはやお年寄りは増えない。高度成長期に若者を送り出したため50代、60代が少なく、亡くなる人も多い。余った医療費を子ども支援に当てると子どもが減らなくなる。島根県海士町ではお年寄りにかかっていたお金を若者を受け入れるに費やした結果、子どもは減っていない。現役も横ばいだ。
 世界中が高齢化していく中で、先に高齢化した日本の田舎では世界に先駆けてお年寄りは多いけど子どもが減らない社会ができている。田舎の良さを合わせ持ち、年寄りの増加に対処していける日本が実は世界で一番最初に問題を解決できる。

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