毎日・世論フォーラム
第296回
平成29年4月17日
元外務大臣 前原 誠司

テーマ
「現下の政治課題とあるべき国家像」

会場:ホテル日航福岡

相応の負担で受益を

前原 誠司 元外務大臣
前原 誠司 氏

プロフィール

前原 誠司
(まえはら せいじ)

1962年4月、京都市出身の42歳。87年京都大学法学部卒業と同時に松下政経塾入塾(8期生)。91年、京都府議会議員に史上最年少の28歳で初当選。93年衆議院選挙で、日本新党から初当選。以来8期連続当選。京都2区。この間、95年に日本新党を離党し、院内会派の「民主の風」を結成、その後、さきがけに合流。96年にはさきがけを離れて、旧民主党に参画。01年民主党幹事長代理に就任。02年には民主党代表選挙で野田佳彦氏とともに若手の代表候補となる。03年、民主党「次の内閣」ネクスト外務大臣に就任。取り組んでいる主なテーマは、外交・防衛と財政再建。財政再建では、特に公共事業改革の視点に立った財政再建に取り組んでいる。

 第296回例会は民進党の前原誠司元外相が「現下の政治課題とあるべき国家像」と題して講演、会員150名が参加した。前原氏は「現政権の政策の延長線上にこの国の未来はない」と批判し「政治が国民負担を求めることから逃げず、相応の負担をして皆が受益者になる仕組みを作るべきだ」と述べた。また、「日本の最大の構造課題である少子化の原因は晩婚化と非婚化にある」と指摘。日本の所得再分配が高齢者に手厚く、現役世代の家族向けは他の先進国に比べ低いことなどを挙げ「経済的理由から結婚できない若者が増えている」と述べた。講演要旨は次の通り。

 今の延長線上で日本が良くなるとは私は全く思っていない。今、景気が良くなっているように見える一つの大きなポイントは金融緩和だと思う。だが、2年で2%という物価上昇目標は達成できていない。アメリカはリーマンショックのあと、3度にわたる質的・量的緩和をやり、それから日本の金融緩和が始まった。真逆だ。するとアメリカの金利は上がる。日本の金利は下がる。そしてドルが買われて、円が売られる中で、円安が進んで為替効果もあって株が上がり、企業の収益が上がった。しかし、それが賃金にはね返っていない。実質賃金が下がって可処分所得が減り、一般の国民はより疲弊をする、格差が広がる。こういうことが定着してしまうのではないかと心配している。
 少し問題意識を共有したい。日本人は貧しくなってきている。所得が減ってきている。400万円以下の所得層が増え、400万円以上のいわゆる収入層の分布が下にいっている共働きの世帯が多くなっているにも関わらず、この20年間で世帯所得平均は18%、金額にして120万円程減っている。では、なんでそうなったのか。貯蓄のない世帯は平均36・8%。2人以上の世帯で見ても、30・9%。1人世帯、単身世帯だと48・1%だから、2人に1人が貯蓄がないということだ。しかし、日本全体では、1800兆円も金融資産がある。理由は簡単で、株価が上がっているからだ。
 誰が(金融資産を)持っているのか。50歳以上が85%、60歳以上が7割の日本の金融資産を持っている。じゃあ、なんで若い人達が貧しくなってきているのか。最大の理由の一つが、非正規が多くなっているということだ。日本の最大の問題点、構造の問題というのは少子化だと思っているが、少子化の直接原因は、2つしかない。それは晩婚化と非婚化だ。
 結婚初婚年齢が男女ともどんどんどんどん上がっている。45歳~54歳の方で、一度も結婚したことのない方は女性が14・1%、男性が23・4%。大阪万博のときは女性が3・3%、男性は1・7%だった。今、これがどんどん増えている。少子化、人口減少はもっと進むだろう。
 一方、結婚していない方の男女とも約9割近くは結婚する、結婚したいと思っている。未婚の男女の希望の子供数は2を超えている。結婚している夫婦のできれば持ちたい子供の数は2・42。持ちたい子供の数が達成できる社会ができれば、出生率は軽く1・8は超えてくる。今は1・45です。こういう社会をつくらない限りは、今の日本の構造問題、根本問題である人口減少、若い人が減り、極めて逆三角形ピラミッドの歪な人口構成の社会になる。
 さて、なぜ再分配政策に日本は失敗しているか。高齢者に手厚く、そして若者に薄いからだ。圧倒的に現役世代に薄い。若い方々への給付が少ないところから、少子化の問題も、あるいは若い方が結婚したくても結婚できない、理想の子供数を持てない状況が生まれてきているのではないか。少なくとも全ての子供にチャンスが与えられて、若い世帯のお父さん、お母さん方が結婚でき、理想の子供数を持てるような環境をつくる家族向け支出を増やすということは大事なことだと思う。日本の構造問題を解決しようと思ったら、家族向け支出を少なくとも先進国並みにしていく。そして、例えば年金でも、少なくとも基礎年金なんかは下がらないような仕組みにする。介護報酬なんかも手厚くしていかなければいけない。
 でもそのときに必要なものは財源。ここで全てが今まで思考停止になってきた。それどころか、優先順位の高いものについては、他の予算を削ってなんとかしようという話になってきた。しかし削るのにも限界がある。政治が国民負担を求めることを国民から逃げずに話をして、どれだけ税収が必要になるかということを国民にお願いしない限りは問題解決しないんじゃないか。高福祉皆負担です。全ての世代の方々がニーズに合致するようなパッケージを政策的に埋めこんで、そしてそれを実現するためには、財源はこれくらい要りますよということを皆様方にお示しをする。相当なことができて、それが皆様方の安心につながるし、日本の構造問題の解決につながるし、そして何よりもこれからの日本の社会のニーズに合ったものになっていくということだと思う。みんなからいただいて、みんなが受益者になるという考え方をしっかりと、我々はまとめていきたいというふうに思っている。

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