自民党税務調査会長
野田 毅 氏
プロフィール
野田 毅
(のだ たけし)
1941年10月熊本県出身72歳。64年東京大学法学部卒業と同時に旧大蔵省入省。旧経済企画庁、旧通産省の政務次官、衆議院商工委員長などを経て89年建設大臣、91年経済企画庁長官、99年自治大臣・国家公安委員長を務めた。09年から現職の自民党税制調査会の会長。現在、自民党社会保障制度に関する特命委員会委員長、社団法人日中協会会長も努める。
第258回例会は,自民党の野田毅税調会長が「日本の税制について考える」と題し講演した。野田氏は、来年4月の消費増税による税収を財源に充てることはないと明言、自民、公明、民主3党による社会保障改革の協議については「民主党も責任政党の誇りを持ってやってほしい」と話した。講演要旨は次の通り。
EU大使が先日、私に疑問を呈した。ヨーロッパの付加価値税(消費税)は最低でも15%、最大25%なのに、日本では8%、10%に増税することにもめているのはなぜなのかというものだ。更に、ヨーロッパでは付加価値税の使い道を限定しないことが流れになっているが、日本は社会保障に限定するのはなぜなのかという疑問も呈された。
これは、EUの前身のECは、各国の負担金が付加価値税を前提にしていたから最低15%になったからで、日本とは消費税の成立過程が異なるということと、日本では高齢化が進んだのに、財源なしで社会保障給付を進めてきたという経緯があったためだ。
昨年の3党合意は歴史的なものだった。与党だけでは税と社会保障の一体改革は難しかった。もう野党は批判だけの無責任でいいということにはならない。日本は少子高齢化が進み、特に団塊世代が70代に入っていくため年代構成としてはいびつになる。団塊世代が65歳以上になる2025年問題をクリアするため、社会保障費をどうするか。予算を削って持ってくるだけでなく、借金までしているが、もうこれ以上は他の予算を削れないし、借金もできない。だから消費税増税となる。もう甘いことを政治家は言えない時代だ。ここで安定したシステムを構築しないと、次世代につけを残すことになる。この問題は国民の理解、後押しがないと政治は成り立たない。
当面、消費税によって借金返済をすることはできない。消費税は全額を福祉に充てる。消費税と社会保障はワンセットにして、他の財源に充てないようにしないといけない。8%の後の10%になった時、どう対応し、どんな環境にするか。10%でいいのかという疑問もあるが、民間からも議論が出て、次へ向かっていくことになるだろう。
法人税の実効税率をどうするかは、予算編成と一緒にやるのが通例だ。しかし、企業側はこれまでコストカットを優先してきた。雇用、設備投資などのカットだ。まずは各企業には気合いを入れてもらい、給与アップなど前向きのギアチェンジをしてもらって、経済全体が前に進んでいくようにしないといけない。そして、気合い論から政策論へと発展させたい。
軽減税率については、公明党は3党合意の際に、軽減税率を実施することを前提に合意した。だから、10%にする際にはちゃんとやるべきだと考えるが、簡単にはできないだろう。軽減税率導入のスタンスは変わらないが、何を軽減税率対象とするかの線引きが難しいし、導入後の手続きの面倒くささも問題だからだ。
重要なのは、今後、政権が変わったとしても、システムは残すようにしなければいけないということだ。消費税率8%、10%のままだと、日本は持たないのではないか。日本が持たなくなると、世界全体にも影響を与えかねない。アベノミクスが成功の道を歩むためにも、税と社会保障の一体改革は必要だということを理解してほしい。 欧州経済危機の影響を分析