毎日・世論フォーラム
第255回
平成25年6月21日
拓殖大教授(前防衛大臣) 森本 敏

テーマ
「今後の国際情勢と日本の課題」

会場:ホテルニューオータニ博多

深刻な日韓関係を懸念

森本 敏 拓殖大教授(前防衛大臣)
森本 敏 氏

プロフィール

森本 敏
(もりもと さとし)

1941年3月東京都生まれ、72歳。65年防衛大学校卒業後、航空自衛隊入隊。77年から外務省出向。00年拓殖大学国際学部教授に就任。05年からは拓殖大学海外事情研究所所長及び同大学院教授を務める。「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)運営委員、防衛法学会顧問。前防衛大臣。外交・安全保障のスペシャリストとしてTV番組の出演も多い。近著に『日本防衛再考論―自分の国を守るということ』、『普天間の謎―基地返還問題迷走15年の総て』(海竜社10年)他多数

 第255回例会は、前防衛相の森本敏・拓殖大教授が東アジア情勢と日本の課題について講演した。森本氏は尖閣諸島の領有権を巡る問題で冷え込んでいる日中関係に触れ「首脳会談はできないが、緊張関係を何とか戻したいという考え方になっている」と述べた。
 「日本の企業進出や投資が冷え込んでいるのを中国は内々には困っている。緊張を和らげるために手を打つ必要があると考えている節がある」と説明。尖閣諸島周辺での中国公船、航空機の数が減った点や、日本の進出企業に対する許認可がゆっくりながらも出るようになった点を兆候として挙げた。一方で、竹島の領有権や従軍慰安婦問題などから「もっと深刻なのは日韓関係だ」と指摘。実務レベルで関係改善の努力をしなければいけないと警鐘を鳴らした。講演要旨は次の通り。

 何か施策を考える時、トレンドを見積もることは最も基礎的な仕事だと思う。時代をさかのぼり、歴史の上に立って将来を展望することは重要だ。長い潮流は見ているとわかる。3年先を見通すには30年、10年には100年を振り返ってみなければならない。15年だと150年になるが、15年が最大幅だと思っている。
 CIAは2030年についての報告書を先日出した。その中で、東アジアについては一連の経済統合が進み、発展が見込まれるとしている。ただ、領有権、ナショナリズム、経済格差などの問題が地域的には難しくなるだろうともしている。そして、米国を中心とするか中国を軸とする枠組みによって発展することを見込んでいる。どちらに進むのかは書いていない。しかし、米国の方に進むというのが読み取れる。
 中国は統治を安定させることが重要だろう。国民に不満がくすぶっているからだ。70年代末までは国民は中国共産党におびえていた。しかし、今では政府が人民を恐れている。中国国民の6~7割はネット社会でつながっているが、これは動力であり、反政府の動きにもつながりかねない。習近平主席の能力は不明で、誰が推したのかもわからない。中国をどこへ持って行こうとするのかもわからない。しかし、持続する経済繁栄を約束する限り、国民は支持していくし、統治にも従うだろう。経済格差、環境問題、官僚の腐敗と汚職などの問題を中国は抱えているが、それでも国民は、豊かになり、今後も豊かになっていくと思うから従うのだろう。
 80年代、中国はアフリカに進出していった。中東湾岸の資源を手に入れようとしたためだ。東シナ海、南シナ海にも資源があるため、中国は71年に尖閣諸島の領有権を主張し出した。問題が複雑になったのは、東京都が島を買おうとしたためだ。中国は「受け入れられない」と強硬な態度に出たため、政府は都に代わって島の購入を決意した。
 中国は日本との緊張関係をやわらげるための手を打っているようだ。中国船、飛行機の出現が減ったし、中国に進出しようとする日本の企業に対する許認可がゆっくりとだが出るようになった。中国としても現状はまずいと思い始めているのだろう。
 実は、中国よりも、日韓関係の方が問題は大きくなりつつある。竹島、従軍慰安婦問題などから反日感情は高まっている。橋下徹・日本維新の会共同代表の発言などにより、米国は日本側が日韓関係を悪くしていると思っている。橋下氏の発言は悪い影響を与えている。1920年代以降の近現代史を振り返り、アジアの中で日本がどんなことをしたかを考え、これからの15年を考えないといけないだろう。

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