毎日・世論フォーラム
第338回
2021年12月17日
関東学院大学教授 君塚 直隆

テーマ
「世界の君主制から日本の皇室を考える」

会場:ソラリア西鉄ホテル福岡

国民との距離縮める取り組み
皇室は情報発信を

君塚 直隆 関東学院大学教授
君塚 直隆 氏

プロフィール

君塚 直隆
(きみづか・なおたか)

 1967年、東京都生まれ。立教大文学部史学科卒業後、英国留学を経て上智大大学院文学研究科史学専攻博士課程修了。神奈川県立外語短大教授などを経て、関東学院大国際文化学部教授。専攻はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史。
「エリザベス女王-史上最長・最強のイギリス君主」「悪党たちの大英帝国」など著書多数。2018年の「立憲君主制の現在-日本人は『象徴天皇』を維持できるか」(新潮選書)はサントリー学芸賞を受賞した。

 第338回例会は12月17日、福岡市のソラリア西鉄ホテル福岡であり、関東学院大の君塚直隆教授(英国政治外交史)が「世界の君主制から日本の皇室を考える」と題して講演した。君塚氏は英国など欧州の王室が活発に情報発信していることを紹介し「皇室がSNS(ネット交流サービス)などで発信すれば、より国民に近づいていける」と訴えた。  君塚氏は国民と皇室、王室の距離を縮める取り組みとして、上皇ご夫妻が日本全国の被災地を慰問されたり、英王室のエリザベス女王が新型コロナウイルス禍でメッセージを出したりしたことなどを引き合いに、皇室からの国民に向けたアピールをより強めるべきだとの考えを示した。
 天皇陛下は「資源、地球環境としての水の問題」、皇后陛下は「子供の貧困や虐待問題」といった面で、国際舞台でさらに活躍できるとの期待を示した。テレビを通じて、天皇陛下の年頭メッセージを出すことも提唱した。講演要旨は次の通り。
 憲法で「天皇は国民の象徴」とし、国家元首という表現は使っていないが、世界は天皇を国家元首としてとらえている。これは戦後70年間、国民、政府、国会が象徴天皇制というものをほったらかしにしたつけではないか。憲法ができたときの議論が侃々諤々あったが、それが一段落すると、天皇とは何か、象徴天皇とは何かということは全然議論されない。
 平成の明仁天皇、美智子皇后は、天皇になるにあたり、父の昭和天皇と違う味は出せるのかいろいろ逡巡されたと思う。平成の30年間に作り出された側面は、大きく二つの柱がある。一つ目は、平成2(1990)年に長崎・雲仙普賢岳で噴火が起き、北海道胆振東部地震(平成30年)にいたるまで大きな災害があった。その時に被災地を訪れ、座り込んで被災者に言葉をかけて励ますという姿は、昭和天皇、皇后ご夫妻にはできなかった。
 それを築き上げたのは美智子さまだったといっても過言ではない。もともと皇室は戦前からハンセン病の方などへの慰問が多かったが、1960年から本格的に公務に入られた美智子さまの場合はさらに、戦後に孤児になった人の施設や障害児の施設などを頻繁に訪れるようになった。お子さんだから背が低い、車いすの人もいる。その時、美智子さまは最初から膝を屈して、直接話しかけている。皇太子も同じように膝を屈し、障害者やお子さんに話しかけると反応が違うということから、こういうスタイルが確立されていく。本当だったら、大変なところに来てほしくないと思う人もいると思うが、お二人の真摯な姿勢に接して、ありがたいという風に思われる。これは天皇になってから進めたと言っていい。
 もう一つは、戦地の訪問だ。長崎、広島など各地を訪れ、天皇になられてからは可能な限り、戦地を訪れたいということで、2005年にはサイパンに行って黙とうした。10年後の戦後70年は、ソロモン諸島を訪れた。最後の公式訪問はベトナムやフィリピンを訪れるということで、昭和天皇にはできなかった慰霊の旅をした。この二つの柱を平成の天皇、皇后両陛下が新たに作り出したと言っていい。
 平成のお二人は昭和の時代よりさらに公務を担い、全国各地を回られた。令和の天皇、皇后のお二人がどういう持ち味を出すといいのか。歴代の天皇、皇后のなかで、お二人は史上初めて長期の海外留学を経験している。平成のお二人も英語もでき、いろいろなさっているが、それ以上の国際舞台での活躍を期待できるのではないかと思う。今の日本の皇室、皇族は、天皇、皇后は別として、関わっている慈善団体を中心とした団体の数が少なすぎる。イギリスの王族は、18人くらいで3000の団体のパトロンをしている。日本がやれないことは全くない。
 全国民レベルで皇室が国民に近付くにはどうしたらいいか。イギリスやヨーロッパがいい事例を見せてくれている。エリザベス女王が1952年の即位からやっていたのがクリスマスメッセージだ。今はユーチューブにもアップされている。その年の出来事、王室内部のこともあればイギリス、世界のこともテーマになり、毎年冬の風物詩になっている。ヨーロッパ中がまねて、自ら国民にメッセージを寄せるようになっている。先進国でやっていないのは日本だけだ。今年(2021年)1月1日、天皇、皇后両陛下がビデオメッセージを寄せられた。一般参賀に代わるものとして配信したが、午前5時半に宮内庁のHPから発信した。お二人は頑張っておられたが、そんなやり方だから誰も見ない。やり方がおかしい。
 宮内庁の大失態だったのは、2020年3月、4月に特にヨーロッパをコロナ禍が襲った時、ヨーロッパの王、大統領、首相が皆、国民にテレビでメッセージを寄せた。日本はやらなかった。こういう公務を日本の皇室は増やさないといけない。
 今やっている有識者会議で話されているのは、皇室典範12条では、女性皇族が男性の皇族以外と結婚した場合は、皇籍を離れないといけない。改正しないといけない時期になっていたのに、今ごろになって急にやっている。男系男子にこだわるとどうするか。一つの方策は、70年以上前に皇籍を離脱した旧宮家の人たちの子孫を戻すことだが、天皇家と秋篠宮家以外の皇族の名前や年齢、どういう経歴をたどって、どういう問題に関心があるということが言える人はほとんどいないと思う。今の皇族でさえ非常に遠いのに、70年以上前、名前も顔も知らない人が戻ってもどうなのか。ならば今の勢力を、さっき言ったSNSも活用して、公務もどんどん増やすことだ。
 ダイアナ事件の時、英王室は危機に陥った。広報もあまりなかった。ほとんどの国民は「どうせ王室なんて、自分たちの税金で食べている。チャリティーをやったのはダイアナだけだ」というすごい誤解を持っていた。それで広報しないといけないと気づいた。その結果、実際にいろんなSNSも活用した。それだけの広報をやれば、これだけ忙しいと分かってくれて、国民の内側から、これは残さないと駄目で、そのためにどういう方策があるかという声が出てくる。
 4月9日に99歳で亡くなったエジンバラ公(エリザベス女王の夫、フィリップ殿下)が、こういう言葉を残している。「ヨーロッパの主要な王室は、すべてその中核にいる連中によって亡ぼされた。彼らはまったく反動的で、どんな改革も変革も行わずただ現状維持をする連中だ」。我々に刺さる言葉に思え、皆さんにもよく考えてほしい。今後の皇室に、日本の文化に大切なものだと思う。

年度別アーカイブフォーラム