毎日・世論フォーラム
第335回
2021年8月26日
ジャーナリスト 鈴木 哲夫

テーマ
「秋に迫った政局展望」

会場:ホテル日航福岡

国民を巻き込んだ秋の大政局に

鈴木 哲夫 ジャーナリスト
鈴木 哲夫 氏

プロフィール

鈴木 哲夫
(すずき・てつお)

 1958年、福岡県生まれ。早稲田大法学部卒業後、テレビ西日本報道部、フジテレビ報道センター政治部、日本BS放送報道局長などを経て、2013年からフリージャーナリストとして活動。永田町を長年取材し、与野党に人脈を持つ。著書に「石破茂の『頭の中』」「戦争を知っている最後の政治家-中曽根康弘の言葉-」など。
 また「櫻井浩二 インサイト」(RKBラジオ)、「ももち浜S特報ライブ」(TNCテレビ)にレギュラー出演するほか、「バイキング」「ゴゴスマ」「羽鳥慎一モーニングショー」など多数の番組でコメンテーターとして活躍中。

 毎日・世論フォーラムの例会が8月26日、福岡市のホテル日航福岡であり、ジャーナリストの鈴木哲夫氏が「秋に迫った政局展望」と題して講演した。鈴木氏は9月の自民党総裁選や次期衆院選について「自民党内や永田町に限られた政局ではなく、国民を巻き込んだ大政局になる」と述べた。
 鈴木氏は菅義偉政権の新型コロナウイルス対策を「人災であり、一人でも国民の命を失ってはいけないという危機感が足りない」と批判。東京都議選や横浜市長選などの結果を引き合いに、次期衆院選は自民・公明の与党にとって厳しい戦いになるとの見通しを示した。
 自民党総裁選の顔ぶれに関しては、菅首相や26日に出馬表明した岸田文雄・前政調会長の他に、下村博文政調会長、茂木敏充外相らの名前を挙げた。石破茂・元幹事長については「総裁選に出るとも出ないとも言っていない」と語り、出馬の選択肢は残しているとの見方を示した。講演の概要は次の通り。
 秋の政局は自民党総裁選、総選挙があるが、今回は大政局と言っていい。これまでの永田町に限られた政局と違い、国民が主役、国民を巻き込む形での大政局になると思う。
 新型コロナウイルス対策では、政府のやり方がお粗末で、結果を出せなかった。私は人災だとはっきり言っている。自民党でかつて危機管理の鬼と言われた後藤田正晴(元副総理)さんの名言がある。阪神大震災(1995年)の時、後藤田さんが当時の村山富市首相に「災害の最初は防ぎようがないが、その後は政治の人災になる」と言った。だから「何でもやれ」と。その意識が前安倍政権、今の菅政権にあっただろうか。外国と比べ相対的に死者は少ないかもしれないが、一人でも国民が命を失ったら、政治の人災だ。永田町にはその危機感が足りないと感じる。
 菅政権の最大のネックは、意思の疎通・共有ができない、風通しが悪いことだ。菅さんは物事を決める時、事前に周囲に相談しないので、決まってから周りはびっくりする。菅さんの政治スタイルでもあるが、人事を握られている官僚ら側近も、違うと思ってもマイナスのことを言えない。これが菅政権の最大の弱点だ。責任はそういう体制を作った菅さんにある。さらに安倍政権の時は、首相補佐官や官房長官だった菅さんら、首相の盾になる人たちがいた。しかし、菅さんには誰もいない。
 総裁選は、菅さんは多分出るだろう。しかし総選挙は菅さんで戦えるのか。ダメだという意見があり、菅下ろしの流れが出てくるだろう。
 総裁選は他に誰が出るか。岸田文雄さんは出る。応援がほしいので、若い議員や安倍さん、麻生太郎さんの動向を見極めたいだろう。また、下村博文さんに聞いたら、出ると言っていた。昨年の総裁選の時は下りたので、出るのが既定路線だ。茂木敏充さんも意欲を持っている。最近名前が挙がっている高市早苗さんは、稲田朋美さんへのライバル心が強く、自分に出番が来たという思いがあるが、20人の推薦人確保は確実ではない。石破茂さんは、今回は出ないとの報道があるが、本人は出ないとは一言も言っていない。今やるべきは臨時国会、コロナ対策だと発言している。世論や状況を見ながら、出るときには出るということだろう。最後まで出る可能性はあると思う。野田聖子さんも、推薦人が集まれば出るだろう。
 今度の総裁選は党員投票もあり、永田町の論理だけではなくなる。
 しかし、そんなことをやっている場合かと思う。コロナがこんな状況だから、総選挙を今やるべきでないと言う自民幹部がいるが、それなら総裁選も今やる必要があるのだろうか。総裁選は、国のトップが変わる可能性がある。変われば認証式や組閣をやって1カ月ぐらい空白をつくることになる。今やるべきではないだろう。私は総選挙の後に総裁選をやるのが、一番筋が通っていると思う。
 国民は今回、総裁選を厳しい目で見ていると思う。有権者は総裁選の実像を見てくれるはずだと信じている。

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