自民党新型コロナ感染症対策本部長代理 参院議員
武見 敬三 氏
プロフィール
武見 敬三
(たけみ・けいぞう)
1951年11月、東京都生まれ。76年、慶応大大学院を修了、法学修士。米ハーバード大客員研究員などを経て95年、東海大教授に就任。同年、参院東京選挙区で初当選後、外務政務次官、副厚労相などを歴任した。現在5期目。医療・保健問題に詳しく、2019年、世界保健機関(WHO)親善大使に就任。党総務副会長、国際保健戦略特別委員長も務める。
87年からテレビ朝日「モーニングショー」のメインキャスターを務めた。父は元日本医師会長・世界医師会長の武見太郎氏。
自民党参院議員で党新型コロナウイルス感染症対策本部長代理を務める武見敬三氏が4月12日、福岡市のホテルニューオータニ博多で開いた毎日・世論フォーラム例会で「危機管理として~コロナ対策の現状と課題~」と題して講演した。
武見氏は「国産ワクチンがないことは屈辱だ。接種のタイミングが遅れてしまったことが悔やまれる」と指摘。外国産に頼る現状に「多くの人が接種できるのは今夏や秋以降になる」との見通しを語った。変異株については「5月の大型連休前後には全国的にほとんどの感染者は変異株になる。民間企業と連携するなど、モニタリング態勢の強化が必要だ」などと話した。新型コロナと地方分権については、新型コロナへの対処は国の責務とすることを基本方針にすべきだと訴えた。講演の主な内容は次の通り。
コロナ対策に関わる課題と問題の本質はどこにあるのか報告させていただきたい。
昨年1月、WHOが新型コロナウイルスの中国での発生を国際社会に向けて発信し、その後、我が国の司令塔機能を巡ってさまざまな試行錯誤が始まる。3密の排除など予防の具体策が試みられてきた。厚生労働相だけでなく、コロナ担当大臣、ワクチン対策の大臣が任命され、3閣僚が司令塔機能を担っている。
当初の司令塔機能では、専門家会議と政策決定に関わる人との関係というのがまだできていなかった。マスコミも専門家会議を盛んに報道して、あたかも専門家会議が政策決定に直接関わっている印象を与え、政府の中でも非常に大きな問題だという認識が持たれるようになった。7月の段階で、専門家会議は解消され、基本的対処方針諮問委員会という特措法に基づく専門家グループが位置づけられた。そこに新型コロナ感染症対策分科会などが次々と発足して、今日の事態に対処するという構図になってきた。
抜本的な危機管理に関わる制度改革、法改正に関わる議論をさせてほしいと新しく総理になった菅総理に提言した。中身は、医療対応、公衆衛生、危機管理対応、研究開発という四つの機能を司令塔機能が確保することを提唱し、その中で疫学的な研究調査と臨床研究を一体化させることを強く提言した。提言により、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターで、疫学研究と臨床研究を連携させる協議会が発足した。
この問題は地方分権化と矛盾する、非常に難しい、国のあり方に関わる課題に直結する。危機管理の安全保障上の課題については、国の責務でこうした事態に対処するという基本方針のもとに、平時とは別に有事における制度設計を本来しなければならない。指揮命令系統をしっかりと実行可能な形で組織するということが、非常に難しい構図に我が国はなっている。情報システムも我が国は保健医療の分野で遅れていることは、コロナで分かってきた。いかに改善するかということは我が国にとって最大の課題だ。
変種株のモニタリング体制の強化というのが大きな課題になってきた。5月の連休前後ぐらいには、おおよそ全国的にほとんどの感染者は変種株になっていくとみている。新手の変種というのを確実に、早くサーベイランスして見つけ出さなければならない。必要なのは変種株PCR検査だが、国立感染研がこうしたゲノム解析をできる速度は1週間におおよそ600例だ。これではとても足りない。変種型PCR検査も保健所と、地方衛生検査所でやるだけでは十分なサンプルは集まらない。より地元に近い大学でゲノム解析ができるところと連携していち早く解析して、どのような変種株かを特定し、検体ではなく情報だけを感染研に集約する仕組みにすることが適切だ。
次に医療提供体制だ。医療逼迫、医療崩壊は避けなければならない。そのために病床の確保をし、その確保と配分ができるようにしなければならない。病床確保でも、公的な病院に、より多くコロナ対応のためのベッドを増やしてもらうという対応をする。増やしただけでは対応できず、医師や看護師、人工呼吸器やECMOを動かせるような技師、エンジニアまでいなければならない。そのための施策というのを2月、3月を通じて私どもは策定し、厚労省から課長通達で実施されようとしている。一般医療にしわ寄せを作らないやり方というのは、公的病院の中でいくつかコロナ専用病院を作って、その中で集中的に患者に対応できるようにするのがベストだ。しかし我が国はそうした法律も制度設計もなかったために試行錯誤の結果、公的病院に関わる仕組みで対応しようとしている。
次はワクチンだ。何とかして国産ワクチンをつくりたい。4社がつくろうとしているが、2社の2層の試験がようやく終わるぐらいのところだ。幸か不幸か、日本では患者数が少なくて差異が明確に出てこない。海外での治験には膨大なコストがかかって、おおよそ一つの新たなワクチンの第3層治験を海外でやるだけで400億~500億円かかる。膨大な資金が政府から支出される。米国のような形で、承認ではなく緊急使用を認めるという制度は我が国にはない。特例承認という仕組みで短期に認めることになっているが、特例承認の前提は主要各国において既に承認されていることというのがある。国産ワクチンは特例承認の対象にならないという矛盾がある。これらをまさに今、薬事当局などと調整しながら危機管理の中での薬事承認のあり方を検討している。
悔やまれるのは、接種のタイミングが遅れてしまったことだ。ワクチンは変種株にまだ有効性があると確認されているから、第4波が来る前に接種ができたはずだ。実際にはこれから連休にかけ、第4波はより深刻になる。そのころになると、国際世論はオリンピックホストである日本がどんな状況か関心を持ち始め、オリンピックに否定的な世論が形成されることはありうる。オリンピックはアスリートのための競技であり、アスリートは各種競技も含めて徹底的に感染制御して、安心してオリンピックが開けるという態勢をまず整えて国際社会に発信することが最も重要だろう。オリンピックを通じて、感染が広がっている時でも、感染制御をすれば経済、社会、文化、スポーツ事業はできるときちんと内外に示すことが私は大切だと思っている。ウィズ・コロナの時代に、新たな感染症とも闘わなければならない時代を考えた時、感染症がはやった時にただちにみんな自粛だと縮こまって、経済社会活動がただちに低迷してしまうような弱体な社会構造であってはならない。感染症に関わるまず有事という認識を持って立ち向かい、経済、社会、文化、スポーツといった活動をできるような社会を構築していくことが、我々のこれからの大きな課題になっていく。