衆議院議長
大島 理森 氏
プロフィール
大島 理森
(おおしま ただもり)
1946年青森県生まれ。70年慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社勤務後、元青森県議会議長を務めた実父の死去を受け、74年県議会議員選挙で初当選。83年の衆議院総選挙で初当選(青森3区)。以来11期連続当選を果たす。政界では、行動力と誠意ある人柄による人脈の広さで知られ、党内では、各派閥、グループと太いつながりを持ち、連立を組む公明党との信頼関係も厚い。2015年、戦後生まれとして初めて衆議院議長に就任した。来年5月の天皇陛下の退位を実現する特例法の成立には中心的役割を果たし、「立法府としての責任を果すことができた」と話した。
第314回例会は、大島理森衆院議長が「平成時代とこれからの課題」と題し講演。会員120人が参加した。
大島氏は「女性宮家の創設」も含めた安定的な皇位継承について、「来年は退位と同時に即位の礼をやらなくてはならない。その後、政治の場で結論を出さなければならない」と述べ、来年10月の新天皇の即位の礼が終わった後に国会で議論すべきだとの考えを示した。また、「元号をいつ発表し決めるかは課題だが、もっと大事なことは永続する皇室を今後どう作っていくかだ」とも指摘した。外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管法には「法案自体粗かった」と苦言を呈し、法施行前に政省令を含めて国会報告させるとした自らの裁定について「地域経済・社会に切実に影響する。説明責任は政府にも国会にもあるので裁定した」と説明した。講演要旨は次の通り。
まずは来年、天皇陛下の退位と皇太子殿下の即位がつつがなく執り行われることをお祈りしたい。私が官房副長官だった平成2年に即位の礼があり、それから30年たって退位の問題に直面するのはまさに巡り合わせという感じを持っている。今回の生前退位は日本の歴史の中で200年ぶりとされているが、これほど継続して皇位が継承されている国はない。政治的権力とは一線を画しながら歴史、文化、永続性の象徴として存在してきており、国民は尊敬の念を持っている。
経過を振り返ると、一昨年の8月8日に(生前退位の意向を示唆する)天皇陛下のお言葉があった。この問題を国会としてどのように考えていくか。まずは政局の対象にしてはいけないということが念頭にあった。静謐な状態で議論をするためにも、衆参の議長、副議長の下で協議会的なものを作るのがいいと思った。
協議には権力闘争の場である国会の中ではなく議長公邸を使った。国民の総意を探るため、小さい政党も入れて協議した結果、退位を実現する特例法が成立した。
しかし、まだ課題がある。それは永続する皇室をどう作っていくかだ。付帯決議には政府は安定的な皇位継承を確保するため女性宮家の創設等について考えるとある。来年、退位と即位の礼を終えた後に結論を出さないければならない。
次に平成2年のことを申し上げたい。平成元年8月に生まれた海部内閣は日米構造協議、政治改革が課題だった。ところが平成2年8月2日、イラクがクエートに侵攻した。この問題にどう対応するか。日本にとって大変な問題提起だった。
お金は出したが、この問題が提起したことは何だったのか。私は国際政治に対する日本のパラダイムシフトだったと思う。核の傘に入って経済成長だけを考えればいいというパラダイムが崩れたということだ。
当時の海部さんは自衛隊を出すことに抵抗感があった。憲法9条という制約の中で何ができるかを考える中で最終的に3年かかってPKO法が成立した。これは平成時代の政治の一つの結果だった。
あれ以来、私たちの世界には新秩序が生まれたようで生まれていない。そういう状況の中で日本はどういう立ち位置をつくるのか。報道では断絶とか亀裂と言う言葉が踊るが、こういう時だからこそ民主主義、自由市場、法と秩序、平和主義という価値について対話と合意を作るために日本が国際政治で主体的責任を果たす必要性が高まっている。
バブル崩壊とリーマンショックについても取り上げたい。日米経済摩擦が起きて構造協議をした。もう少し投資の仕方を考えろとか、日本は系列をやめろとか、そういう内政干渉をお互いにやったわけだ。前川リポートが出されたが、黒字の金は内需拡大に使うべきという内容だった。
内需拡大によって日米の摩擦が解消されると言われたが、その通りになったのかどうか。摩擦解消というより不動産や株などに投資し過ぎてバブル崩壊となった。リーマンショックも経済の質の転換の問題ではないか。資本主義は絶えず不安定さを伴うと実感している。
我々はもう一度、物作りについて誇りを持つことが大事ではないか。経済はやっぱり物作り。そして一番の鍵はイノベーション。よく個人の力が日本は足りないと言われるが、集団の知恵を出す力を持っている。集団で知恵を出す仕組みはこれからも大事だ。
平成の30年間は大震災もあった。阪神淡路大震災、東日本大震災。改めて日本という国土の宿命を踏まえながら備えをしなければならない。国土強じん化。私は日本人の力を確信している。それは共助の力。少子高齢化社会でその力をどのようにシステム化するか。それを日本社会に取り入れた姿を見せることが世界への貢献だと思う。
最後に政治と国会について触れたい。この30年、自民党は2度下野して政権交代を経験した。いろんな批評があるが、民主主義の姿を示したとも言える。同時に選挙制度も大きく変わった。平成の30年間は連立と離合集散の政治だった。
政党への信頼が薄れると国民は意見をどこに言っていいかわからなくなる。そういう状況が世界のあちこちに見えていないか。民主主義は議論による統治だ。世界の格差、難民、グローバリズムなどの現実的課題を考えた時、民主主義の基本である寛容性にみなさんが疲れているのではないか。日本の政治をそういう風にしてはいけない。ここで踏ん張らないといけない。
来年も通常国会が始まるが、丁寧な国会をぜひやってほしい。そして4月30日に退位、5月1日には即位がある。その前には統一地方選があり、夏には参院選もある。6月にはG20があるが、日本は平和外交で世界のバランサーとして頑張ってほしい。