毎日・世論フォーラム
第309回
平成30年6月25日
立憲民主党代表 枝野 幸男

テーマ
「立憲民主党の目指すもの」

会場:ホテルオークラ福岡

枝野代表 連立政権も想定

枝野 幸男 立憲民主党代表
枝野 幸男 氏

プロフィール

枝野 幸男
(えだの ゆきお)

1964年5月、栃木県宇都宮市生まれ54歳。東北大学法学部卒業後、24歳で司法試験に合格し、弁護士となる。当選9回。民主党結党に参加し、政務調査会長、憲法調査会長、衆議院決算行政監視委員長等を歴任。政権交代後、内閣府特命担当大臣(行政刷新)、幹事長、官房長官、内閣府特命担当大臣(沖縄・北方対策)、経済産業大臣など要職を務める。民進党幹事長を経て、昨年秋の総選挙で立憲民主党を立ち上げ野党第一党に。現在同党代表を務める。

 第309回例会は、立憲民主党の枝野幸男氏が「立憲民主党の目指すもの」と題し講演した。会員150人が参加した。枝野氏は政権構想に関し、「単独政権になる必要はない。立憲民主党が中心になる程度の一定のボリュームを作らなければならないが、必ずしも我が党だけで過半数を取る必要はない」と述べ、他党との連立政権を目指す考えを示した。枝野氏は「代表である限り、他党と組織的な合併をすることはない。選挙を通じて遠からず政権を目指す」と語った。講演要旨は次の通り。

 きょうは「立憲民主党のめざすもの」として自民党との違いを話したい。民主党時代から経済政策がないと揶揄されてきたが、私は経済政策で勝負するしかないと思っていて、アベノミクスに対するもう1つの軸を打ち立てて国民の審判を仰ぎたいと思っている。
 結論からいうと、サービス中心の個人消費を増やして経済と社会を立て直すしかない。これがアベノミクスには決定的に欠けている。政治的スローガンでいうと、トップダウン型からボトムアップ型の政治に変える。上からのトリクルダウンを目指すか、下から社会を支えて押し上げるか。これは多くの先進国で新たな対立軸になる。これを日本でしっかり打ち立てたい。
 安倍さんの経済政策は昭和30年代、40年代なら正しかったが、時代状況が決定的に違うので期待通りの成果につながっていない。5年半たってトリクルダウンが起きないのは構造的な問題だ。
 日本の戦後復興は、世界に輸出できる企業を育て、社会全体を引っ張り上げて高度成長してきた。たくさんモノを作って売り、仕事が増えたら新しい工場を造って人を雇った。もうけた分で給料を上げ、下受け孫請け企業に対する工賃を増やした。従って輸出で稼いだお金が社会の津々浦々に行き渡った。農村から出てきてた労働者が消費者として国内消費を担った。輸出産業以外の産業も潤った。これが日本の戦後復興のプロセスだ。
 これはもはや通用しない。輸出企業をもうけさせればトリクルダウンが起きるという幻想から早く抜け出さないといけない。日本の輸出産業は新興諸国の安い労働力に対抗しなければならず、トリクルダウンでもうけを再分配できる構造ではない。それなのにそこにむちを打ってさらに10%成長しろというのがアベノミクスだ。
 確かに強いものをより強くすることは成功したが、トリクルダウンは生じず個人消費は増えていない。それが続いているから日本の経済はデフレ状況にある。これは経済政策の失敗だ。高度成長時代の成功体験にすがって時代に合わない政策を取ってきた結果、個人消費が伸びない構造を作ってしまった。つまり格差と貧困だ。
 この格差是正こそが景気対策だ。日本の経済を立て直すためには、社会を下から支えるしかない。所得の低い人たちの所得を上げ、老後や子育ての安心を高めることに限られた予算を集中する。
 まずは保育士と介護職員の賃上げが必要だ。保育士も介護職員も人手不足だが、いずれも平均的労働者の賃金より約10万円低いと言われている。保育士の賃金を5万円上げる法案を国会に出したが、この方が従来型の大型公共事業より経済波及効果が高い。保育士不足を解消すれば、子供を生みたいけど諦めている人たちの希望をかなえられる。子供が増えれば、個人消費にプラスになる。
 そして介護。高齢者の蓄えは少なくとも800兆円と言われている。高齢者がこの資産を使わないのは医療と介護の不安が大きいからだ。だから介護サービスを充実させ、介護が必要な時には年金の範囲でそこそこの介護を受けられるようにする。どんな田舎にも介護施設があって、死ぬまで生まれ育った所で暮らせるようにする。だから元気なうちにお金を使ってもらう。これが私の景気対策だ。
 財源は国債でいい。私はかつてウルトラ財政規律論者だったが転換した。財政規律を優先していては、いつまでも財政健全化はできない。なぜなら個人消費を回復させないと、安定的な経済の回復基調、成長基調には乗らないからだ。従って財政規律を優先することはできない。その中で今の建設国債と赤字国債の規模は減らせない。減らせない以上、建設国債を赤字国債に振り替えて介護職員や保育士の賃金に回す。介護や保育に投資する方が従来型の大型公共事業より経済波及効果は大きい。
 最後にこういう社会を目指して、どう政権を取るのかを申しあげたい。私は1993年に初当選し、自民党に対抗する大きな政党を作ろうとやってきた。しかし、ある段階から間違えたことに気づかされた。自民党に替わる大きな塊を作ろうと無理に合併を重ねてきた結果、何をしようとしているのか分からなくなった。国民は自民党と何が違うのかを明確にしたら、ちょっとくらい意見が違っても応援してくれる。それが私の経験だ。
 だから再編はしない。立憲民主党は私が代表である限り、他党と政策をすりあわせて組織的な合併をすることはない。党の理念政策に賛同し、党を育てる思いを持った人に、自分の判断と責任で党に入ってもらう。この形で選挙を通じて政権を目指していく戦略だ。一寸先は闇。このやり方でうまくいかなかったら、別の仲間が違うやり方で前に進んでくれるだろう。どこまでできるのか全力でやっていきたい。

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