九州観光推進機構会長
(JR九州相談役)
石原 進 氏
プロフィール
石原 進
(いしはら すすむ)
JR九州相談役。東大法学部卒。1969年国鉄入り。87年の国鉄分割民営化でJR九州へ。2002年に社長に就任。九州新幹線開通や博多駅ビル建て替えを陣頭指揮した。また、九州観光推進機構会長や福岡経済同友会代表幹事も務め、観光や地域経済の発展に尽力してきた。10年12月NHK経営委員に就任。趣味は登山。福岡市在住で、よく登るのは太宰府天満宮近くの宝満山。
恒例の夏の会員交流会が8月24日、ホテル日航福岡で開かれ、会員150人が参加。講演に耳を傾けた後、会社の垣根を越えたにぎやかな交流が繰り広げられた。今年のゲスト講師は石原進・九州観光推進機構会長(JR九州相談役)。「観光を九州の基幹産業へ」と題し、観光産業の今後の動向と受け入れ体制作りなどについて図表を使いながらわかりやすく解説した。参加者は時折うなずいたりメモを取ったりして熱心に耳を傾けていた。
石原氏は「九州観光でもインバウンド(訪日外国人)による消費が拡大しているが、消費単価の伸び悩みなど課題も多い」と指摘。「九州のブランドイメージ向上や観光素材の開発、消費単価の高い富裕層や欧米客の取り込みが重要」と述べたうえで「お客様目線を忘れず『住んでよし、訪れてよし』の魅力的な地域作りを」と訴えた。講演後の懇親会はRKB毎日放送の飯田和郎専務の乾杯で開宴。会員らはテーブルを囲みながら懇親を深めた。講演要旨は次の通り。
九州の観光はインバウンド(訪日外国人)で大変好調だ。しかしながら、いろいろ課題だらけであり、今日は何が課題で、それをどうやって解決して九州の観光を良くしていくかについて、問題意識を持っていただくためにお話ししたい。
九州の人口は右肩上がりにずっと増えてきたが、2000年をピークに減ってきている。2015~40年で約227万人が減少する予想がある。定住人口1人当たりの年間消費額は125万円くらいだから、消費だけで年間1125億円減る計算になる。10年間で1兆1250億円。このままでは大変なことになる。
そういった中で、観光は日本だけでなく世界的に大変に伸びている。国際観光客到着数は、2010年の9・4億人が2030年には倍になると予測されている。そのうちアジアの占める割合は22%から30%になる。アジア観光はまだまだ成長途上で、これから成長するということだ。
次は単純な消費額の話だ。日本の定住人口1人当たりでは年間125万円を消費している。観光で1人いくら消費するかというと、外国人観光客は日本全体では1人1回当たり15万円超となり、8人連れてくれば定住人口1人分をカバーできる計算になる。
九州観光推進機構などが取り組んでいる九州観光戦略では、2023年に九州の観光消費額4兆円、直接入国者数786万人、延べ宿泊者数6800万人が目標になっている。17年の実績がそれぞれ2・7兆円、494万人、4528万人だった。インバウンドによる観光消費額は2015年の3424億円から17年は4843億円と増えていて順調と言えば順調だが、消費単価は12万3000円から9万8000円に落ちているので、入国者数が増えている割には消費額が伸びていない。
問題は消費単価が落ちていることで、これを上げなければいけない。2023年の九州の直接入国者数の目標が786万人なので、その時までに消費単価を15万円まで持っていきたい。15万円が達成できれば786万人で約1兆2000億円というインバウンド収入になり、九州にとっては大変な収入になる。
では、そうなるために何をやるべきか。一つは九州のブランドイメージをブラッシュアップする。九州観光推進機構ができて十数年になるが、最初から九州を世界中に知ってもらうことをミッションにやってきた。しかし、北海道や沖縄県のようにはなかなかうまくいっていない。九州の観光地としての認知度を上げて定着させたい。二つ目はインバウンドの人員増加。三つ目はインバウンドの消費単価を15万円まで持っていくことだ。
そして四つ目が国内旅行者数の増加。九州の観光消費額を2023年までに4兆円にすると言っているが、このうち1兆2000億円がインバウンドによる消費。残り2兆8000億円は国内旅行者による消費だ。これを増やさないといけない。五つ目がお客様目線で、インバウンドも国内旅行者もお客様が何をしてもらいたいのかを考える必要がある。
そこで何が大事かというと入り口となる空港だ。九州域内8空港を利活用して新規路線開発などに取り組む。福岡空港に入りきれない便が北九州空港とか佐賀空港に行ってくれたらありがたい。そのためには高速道路など2次交通インフラをきちんと整備しないといけない。それから福岡空港のスペック向上として、第2滑走路の早期開設や近隣空港との連携強化を進める必要がある。
そして客単価が高い欧米豪や中国のインバウンドの取り込みだ。そのためには行ってみたいと思える魅力ある観光素材を開発しないといけない。同時にそれを情報発信する。観光案内や交通標識、飲食店のメニューなどの多言語化を進め、富裕層の誘致に不可欠な外資系高級ホテルの誘致も必要だ。国内旅行者も増やさないといけない。日本人は有給休暇の消化率が大変低いが、休日はきちんと取らなければいけない。
観光には魅力的な地域作り、街づくりが不可欠で、それをそれぞれの地域でやってもらいたい。自然や文化、歴史、産業、食などセールスポイントになる地域資源を磨き、知らせることだ。例えば高野山の宿坊は大変な人気で、ヨーロッパの人がたくさん行っている。こうした真に魅力ある観光資源の開発が大切になる。地域で観光戦略を練って実行する組織の機能を強化すべきだ。
最近は九州にも観光地域作りをけん引するDMOという団体が検討中も含めて28団体ある。高千穂町観光協会では貸しボートや夜神楽、物販などで稼いでいる。観光振興のためには住民が危機感を持って自立して取り組むことが大切だ。リーダーがいなければ公募してでも連れてくるくらいでなければいけない。「住んでよし、訪れてよし」の地域づくりにみんなで取り組んでいきたい。