自民党元幹事長
古賀 誠 氏
プロフィール
古賀 誠
(こが まこと)
1940年8月、福岡県出身の77歳。自民党岸田派(宏池会)前会長。1980年の衆院選で当選。運輸相、党幹事長などを歴任した。1965年3月、日本大学商学部卒業。参議院議員秘書などを務めたあと、1980年、衆議院議員総選挙で福岡7区から出馬、39歳で初当選。以来連続10回当選。運輸大臣、自民党幹事長、自民党選挙対策本部長代理などを務めた。2012年の衆議院選挙で、不出馬を表明し議員を引退したが、引退後も宏池会名誉会長として影響力を持つ。
第307回例会は、自民党岸田派名誉会長の古賀誠元党幹事長が「混迷する政局」と題し講演、会員150人が参加した。古賀氏は安倍晋三首相が目指す憲法9条への自衛隊明記について「違憲論争に終止符を打つというが、私は何の意味もないと思っている。必ず集団的自衛権の問題が出てくる」と述べた。9月の総裁選の争点に財政再建、外交、憲法を挙げ、「自衛隊は国民のコンセンサスで認められている。9条1項2項を残して書く必要性は全くない」とも語った。総裁選での岸田文雄政調会長の対応については「今、言うタイミングでもないが準備はせねばならない。岸田氏が出る、出ないで戦況は大きく変わる」と指摘。「安倍政権の後は、宏池会(岸田派)主軸の政権を作りたい。その政権には、憲法を堅持し9条は一字一句変えない決意が必要だ」とも強調した。政権の不祥事に関しては「権力を国家と国民のために公平に中立的に使うのは権力者の基本であり、責任だ。残念ながら安倍政権にそれが欠けていたのは間違いない」と指摘した。講演要旨は次の通り。
今年9月の自民党の総裁選にどう対応するかは極めて大事だ。当初は安倍3選は間違いないと言われてきたが、ここにきてメディア各社の世論調査で安倍さんの支持率は30%くらいになった。不支持率は50%を超えている。安倍政権の5年半には同様の時期もあったが、安倍さんは非常に強運ですぐに支持率が不支持を逆転してきた。しかし、今回は支持率を回復できる材料があるだろうか。むしろ次から次へとスキャンダルが出て支持率は下降線に入っている。危険水域に入ったとの考えが広がっているのが現実ではないか。
私は宏池会主軸の政権を願う一人だけに、この総裁選を重く受け止めている。総裁選に岸田会長が出るべきだと申し上げる資格もそのタイミングでもないが、準備はしなければいけない。そのために私は岸田会長に研さんを積み上げていただきたい政策が三つある。
一つは財政規律の問題だ。ご承知の通り、我が国の借金は1000兆円を超えている。財政レベルで考えると、今年の国家予算の約25%はこの国債の償還と利払いだ。裁量権がいかに狭まっているかお分かりいただけると思う。この問題を今後どうすべきなのか。岸田会長は国民に説明しなければならない。
もう一つは外交だ。岸田会長は長い間、外相として安倍政権を支えており、岸田会長が総裁になれば日本の外交は問題ない。しかし、長い歴史と時代の変化を踏まえた外交のあり方は日々勉強しなければならない。特に北朝鮮、中国、韓国、そして米国との関係を洗い直し、日本はどうあるべきかを国民に発信しなければならない。日米関係は自民党が野党時代にぎくしゃくしたが、安倍政権がオバマさん、トランプさんとの信頼関係を構築したことは高く評価すべきだ。しかし、トランプさんにのめり込むのをヨーロッパや中国、ロシアがどう見るのか冷静に考える必要がある。こういう問題についても岸田さんの考え方を話していただかなければならない。
三つ目は憲法問題だ。私はこの問題を一番大切にしてほしい。私は護憲論者の一人で、憲法改正にアレルギーを持っている。安倍総理は憲法改正ありきだ。9条の1、2項を残したまま自衛隊の存在を明記し、自衛隊の違憲論争に終止符を打つと言っている。しかし私は何の意味もないと思っている。必ず集団的自衛権の問題が出てくる。国民のコンセンサスとしては自衛隊は認められており、何も憲法改正をして新たに自衛隊を明記する必要性は全くない。憲法の根幹は第9条だ。戦争の放棄だ。これは政権を持つ人が明確に国民に約束すべき大事なことだ。宏池会主軸の政権になれば、憲法を堅持する、9条は一字一句変えない決意が必要だと思っている。
私が護憲論者だと言うと、必ずそれで日本の平和は保たれるのかと言われる。中国は軍事力を増強している。アメリカをはじめとする国々はもちろんだ。日本だけ平和主義で通るのか、現実を考えろとおしかりを受ける。しかし、私は憲法9条に込められた決意は、あの大東亜戦争の反省と、犠牲を払ってきた国民の覚悟でできており、その重みを伝えていく政権が望ましいと思っている。それはあくまで理想論で、そんなことで平和は保たれないという人はいる。しかし政治で大事なのは理想に向かって責任を果たすことだ。理想の実現のために政治はあるということを国会議員は自覚すべきで、そこに勇気を持つべきだ。今そうした議論がないのは誠に残念だ。
残念ながら戦争を知る世代は遠くなった。この日本を平和を全うできる国として残すために何をすべきかを考えるべきだ。戦争を知らない世代の国になったからこそ大切だ。私は残された政治活動の中で、戦争の犠牲者として戦争を知る世代だからこそ、愚かな戦争を繰り返さない国にするための政治がどうあるべきなのかを言い続ける使命があると思っている。安倍政権の後は何としても宏池会主軸の政権を作りたい。そして平和憲法を守り、次の世代にこの国を残していきたい。
総裁選を目前にして今申し上げた三つを宏池会が堂々と国民の皆さんに伝えることで私の願いがかなうと思っている。最終的に岸田会長が明らかにする総裁選への対応がどちらであれ、私は宏池会主軸の政権ができるまで微力を尽くしたい。あとしばらく皆さん方とも交わりながら、この福岡県はもとより日本の国が悠久に栄えるよう頑張ってみたい。