元自民党副総裁
山崎 拓 氏
プロフィール
山崎 拓
(やまざき たく)
1936年12月、中国・大連市出身の79歳。59年、早稲田大学第一商学部卒業。ブリヂストン勤務のあと、67年、福岡県議会議員。72年の総選挙で衆議院議員初当選(福岡2区)。84年、中曽根内閣で官房副長官、89年、宇野内閣で防衛庁長官、91年、宮沢内閣で建設大臣、95年、自民党政調会長などのあと、01年4月小泉内閣発足で、党幹事長。03年には党副総裁。『反経世会』を標榜してYKKトリオ(山崎拓、小泉純一郎、加藤紘一)と呼ばれた。
第291回例会は、自民党の山崎拓元副総裁が、「今語る YKK秘録」と題し講演、会員140名が参加した。講演では、安倍晋三首相が12月15日に地元・山口県でロシアのプーチン大統領と会談することについて「北方領土問題の解決には年月を要する。画期的な成果は出ない」との見方を示した。また、平和条約の締結後に歯舞、色丹2島を引き渡すとの日ソ共同宣言について「2島の施政権が日本に移れば日米安保条約が適用されるため、ロシアは『除外しろ』と主張する。日米関係が大変な事態になる」と指摘。日本は4島の帰属確認を主張してきたが、山崎氏は「2島返還プラスアルファでは国論が沸騰し、内政は危険な綱渡りになる。私が首相ならば来年1月の衆院解散・総選挙は考えられない」とも語った。北朝鮮の核・ミサイル問題については「拉致問題に特化せず、6カ国協議に重きを置くべきだ」と述べた。講演要旨は次の通り。
きょうは「YKK秘録」から語りたい。皆が一番関心を持っているのは、加藤紘一さんの政治生命を縮めた事件「加藤の乱」だ。その中に(内閣不信任案に賛成するため、本会議場に3回向かうが入れずに戻る)「三度帰り」という一幕があった。加藤さんが「優柔不断」とのイメージを作ったが、自民党の野中広務幹事長が、体を張って阻止するため衆議院の玄関に立ちはだかっていたのが事実だ。
野中さんは、橋本内閣時代に幹事長だった加藤さんの補佐として、3年以上幹事長代理を務めた。知遇を多としていた野中さんは「加藤さんの政治生命が終わる」と心配し、一人で入場を阻むという挙に出た。結局、加藤さんも私も入らず不信任案は否決された。少なくとも党規違反で処分される状況だったが、野中幹事長が加藤さんへの思いやりで強権を発動し、我々同志は不問にされた。YKK秘録には書かなかった逸話として披露させてもらった。
安倍政権の外交・安全保障の行方について話したい。北朝鮮は9月に5回目の核実験をした。弾道ミサイルの問題もあり、大変危険な状況が進行している。だが、この責任は日米両政府にある。
1985年、西ドイツのボン・サミットで、中曽根総理はレーガン米大統領に「冷戦構造を解消しよう。ベルリンの壁は米国の責任で、日本は38度線の解消に努力する」と提案した。その方法が「たすき掛け承認」だ。朝鮮半島の北緯38度線を境に対立する北朝鮮、中国、ソ連側と、韓国、日本、米国側がお互いに国交回復するもので、後の「6者協議」の下地になった。それが歴史の真実だ。韓国は1990年にソ連と、1992年に中国と国交を回復した。しかし、日朝間と米朝間は今も国交がない。小泉総理は2002年9月、電撃訪朝して「北朝鮮が核開発を止め、ミサイル発射を凍結し、日朝間の懸案事項(拉致問題)を解決するならば、日本は大型の経済協力を行う」とする平壌宣言を結んだ。その結果、5人の拉致被害者が帰国し、両国は翌月から国交正常化交渉を行う約束もした。ところが、官房副長官として同行した安倍現総理が「残りの拉致被害者が帰るまでできない」と阻止し、交渉は烏有となった。
2005年の6者協議では、北朝鮮が「核を放棄する」との共同声明が出たが、その後、米国がマカオの北朝鮮資金を凍結したため、共同声明は実行されていない。米国は北朝鮮を甘く見た。日本も拉致問題だけやろうとして失敗した。私は北朝鮮の核開発を進めさせた責任は日米にあると考えている。
北方領土問題に移りたい。12月15日に山口県で日ロ首脳会談が開かれ、成果が出れば来年1月に解散・総選挙との憶測があるが、私はないと思う。
1956年の日ソ共同宣言は、日ソ間で平和条約を結び、同時に歯舞、色丹両島を返還する約束だ。だが国内的には国後、択捉を含む「4島一括返還」が基本方針のため実行されず今日に至る。確かに歯舞、色丹は4島の総面積の7%に過ぎず、人口の割合はさらに小さい。一方で、北方領土問題は今解決すべきテーマだ。なぜなら北方領土が日本になったのは1855年の「日魯通好条約」の結果であり、1945年8月15日までの90年間、日本の施政権下にあった。ソ連は45年9月2日に北方領土を占拠したので、ソ連・ロシアの施政権は今年で71年。あと19年で日本と同じ90年となり、公然と領有権を主張するのは間違いない。日露の政権が安定している時期に一気に片付けることが必要だ。
ただ、2島返還プラスアルファでは国論が沸騰するのではないか。内政的には非常に危険な綱渡りだ。さらに2島の施政権が日本に移れば日米安保条約の適用対象になる。ロシアが最も嫌うところで、返還交渉で必ず「適用を除外しろ」と主張するだろう。それを飲めば安保条約改正となり、日米関係が大変な事態になる。もろもろの理由から、この問題で信を問うなんてことはできる状態ではないと思う。