葵パール代表
松平 洋史子 氏
プロフィール
松平 洋史子
(まつだいら よしこ)
1949年生まれ。徳川光圀の兄がひらいた高松藩松平家の子孫。祖母は佐賀藩主だった鍋島直大の娘。祖母が日本女子高等学校(昭和女子大の前身)の校長時代にまとめた松平家に伝わる生き方教本「松平法式」を受け継ぐ。著書に「松平家・心の作法」(講談社刊)など。
毎日・世論フォーラムでは、特別セミナーとして「女性活躍の時代に学ぶ、松平家の作法」を、6月2日ホテル日航福岡で開催、女性会員を中心に約100名が参加した。創業50年となる葵パール(東京)の代表で大日本茶道協会会長、松平洋史子さんを招いた。松平さんは水戸徳川家の流れをくむ高松藩松平家の子孫で、「女性活躍の時代に学ぶ、松平家の作法」と題して講演。幼少期から受けた「松平法式」という厳しいしつけから得た教訓を踏まえ、おじぎや美しい振る舞い方、心構えを、実演を交えて披露した。講演要旨は次の通り。
◇姿勢、動作、あいさつ教育
松平家の中では、3歳の時から背中に棒を入れて正座の練習をします。そして、主が帰ってくる時にも3歳の時から並び、おじぎをする時はお膝に三つ指をつきます。そうすると、おへその下にある丹田がしっかりと押さえられるので「お帰りなさいませ」と言えるんですね。そういう姿勢を3歳の時から非常に教育されます。
姿勢は静の部分ですので、立った時に丹田に力を入れることを意識してみてください。しっかりその場で静を作るのが、武士でいう気構えなんです。構えができて初めて次の仕事に入ります。まずは姿勢を作っていただきたいと思います。
次に動作です。どうやって子供の時に丹田を教わるかというと、私たちの時は雑巾がけでした。雑巾を手で絞る時に「ふっ、ふっ、ふっ」と声を出して丹田を意識するんです。廊下の目にそって拭きますが、雑巾を置いた時にじわじわと水が流れるとやり直しです。それを繰り返して丹田の位置が決まります。
歩き方は、常に歩く前に頭を「天からの贈り物」と意識し、胸のラインから前に出るように気をつけます。胸からすーっと歩いていくとすごくきれいになります。歩き方は女性にとってすごく大事なことで、自分自身も気持ち良くなれます。ぜひ試していただければと思います。
次はあいさつです。松平の中では、頭を下げることよりも頭を上げる時が大事です。ただ頭を下げるのではなく、頭を上げた時にその方をお迎えをする懐を作ることが日本の心です。そして「おはようございます」「こんにちは」と言葉が必要です。松平では声が遠くに通るように発声の練習があります。
朝起きた時に「おはようございます」と小さい声で言うと怒られます。一日はあいさつで始まり、あいさつで終わるのが松平の法式です。「おはようございます」と言った後は口を閉じます。あいさつについては、とても厳しく育てられます。
◇心の節でしなやかに優しく
心構えについてですが、コップを差し上げる時、置いた後に少し手を添えることで、動作は美しくなります。その小さな仕草だけでも煎茶が玉露のように感じますね。
12歳になった時にお茶のお手伝いをしますが、お茶がなくなったと思った時にすぐ行ってはいけません。息を吐いてから「お差し替えどうですか」と聞いて、お客様が「ちょうど飲みたかったのよ」という時にお茶を出すことが日本の作法なんです。なくなったから出すのは勝手なサービス。間をとってお客様にお茶を出すことを12歳から学びます。松平では勉強よりも作法を厳しく教わります。物にも心を残すということがいかに大事か。お客様にも心を残すということが大事です。
物を大切にすることをどのように学ぶか。松平の中では12月29日をお片付けの日としています。1年間使った物を、来年使う物と使わない物で分けます。使わない物は処分します。一度要らないと言ったものを追いかけてはいけないという覚悟を持つことも教わります。来年また考えればいいんです。そうやって自分の心の節を作っていくのです。そうすると女性は優しくしなやかになります。竹を割ったような性格とよく言いますが、竹は中に節があるからしなるんです。節がなかったら折れます。松平では女性はしっかり自分を持って、節のようにしなやかに優しくなりなさいと教わります。
◇丹田で自制する心を養う
最後に、自分を自制するのは難しいです。松平では泣いたり、怒ったりする時は部屋に入りなさいと言われます。自分の感情を部屋の中でコントロールするということを自然に覚えます。悲しい時でもつらい時でも丹田にためろと言われます。
結婚する時におばあさまから教わったことがあります。「腹が立ち、面と向かって言いたいことがあったら、お風呂場で深呼吸しなさい。その後に戻ってお話しなさい」。実践したら何を言いたかったのかを忘れてしまったんです。
今の時代はメールなど早いスピードでのやりとりが多いと思います。言いたいことがあっても丹田でぐっと抑える。そうすると自分の間ができていきます。自制する心は難しいですが、ぜひ持っていただきたいです。
腹八分という言葉がありますが、松平では残りの二分は人のために残しなさいと教わります。人へ感謝するのです。人に寄り添うことによって、その人からもエネルギーをもらえます。女性活躍の時代だから男性に負けないようにと肩を張らず、自分にしかできない、女性にしかできない気づきをしっかりと持っていれば、女性としての自信や誇りにつながります。それが女性が躍進していくことだと思っています。