前地方創生担当大臣
石破 茂 氏
プロフィール
石破 茂
(いしば しげる)
1957年2月、鳥取県出身の59歳。79年3月、慶應義塾大学法学部卒業。同年4月、三井銀行(現三井住友銀行)に入社。86年の衆議院総選挙。鳥取全県区(現在は1区)から自民党公認で出馬、初当選した。以来、当選10回。12年9月、自民党総裁選挙に出馬。決選投票で安倍晋三現首相に19票差で敗れたが、党員票で過半数を集め自民党内での存在感を高めた。安倍新総裁の下で幹事長。14年9月の第2次安倍改造内閣では、国務大臣(地方創生・国家戦略特別区域担当)を務めた。
第290回例会は、前地方創生担当大臣の石破茂氏が「地方創生とこれからの日本」と題し講演、会員240人が参加した。石破氏は、日本が直面する人口減少は「静かな有事だ」と指摘。「今までのやり方を変えなければ乗り切れない。地方創生に失敗すると国がつぶれる」と述べ、閣外から地方創生に取り組む意欲を示した。
また、地方活性化のヒントとして水産物の冷凍輸送や木造建築の技術革新などを挙げ、「どの分野をどう伸ばすかは地域で考えるしかない」と語った。講演要旨は次の通り。
日本人は50年に1回この国を根本的に見直してきた。再来年は明治でいえば150年になる。1868年に明治維新があり、日清、日露戦争と続くのが最初の50年間。次の50年は日中戦争、太平洋戦争、大東亜戦争があり、戦に敗れて国土は焦土と化した。そして日本国憲法を作り、新しい日本をつくった。しかし、(明治100年に当たる)1968年以降、我々は国のあり方を根本的に見直したとはいえない。戦争や大災害で見直しをしてはならないが、日本人はもう一度、国家のあり方を見直して次の時代に備える必要がある。
自民党は、つけの先送りなどをやめ、新しい日本をつくるため今の1強態勢をフルに使わないといけない。その理由は、この国の人口が恐ろしく減るからだ。今のままの死亡数と出生数が続くという前提だと、西暦2100年、84年後に日本人は5200万人と半分になる。200年で10分の1の1391万人。300年で30分の1の423万人。やがていなくなる。そうならないために今、我々が真剣に考えて、答えを出さないといけない。
国家主権の3要素は領土と国民と統治機構だ。この三つには何があっても外国に指一本触れさせてはならない。国家の独立とはそういうものだ。だが国民そのものが恐ろしく減り始めると、国家主権が崩れていく。国民の数が減り始めるのも一種の有事だと思う。有事だから、今までのやり方の延長線上でこの事態を乗り切ることは極めて困難だ。
子供が多く生まれる地方から、一番生まれない東京に人が集まるから、人口が減るのは当たり前だ。日本人女性が生涯で産んでくださる子供の数は1・46人。一組の夫婦から1人しか生まれないとすると、一世代で半分になる。それは小学生でも分かる。日本の人口急減社会は、世界人類の誰も経験したことのない規模とスピードで始まる。
3年前、増田寛也元総務大臣が「地方消滅」という論文を書き話題になった。2040年、全国の全1718市町村で20~30代の女性がどれくらい減るかを図にして論を起こした。福岡市は人口150万人を超え、発展著しいが、福岡県でみると人口は減り始める。全国の自治体の半分で2040年に20~30代の女性が半分になる。それが日本の状況であり、これを止めないといけない。
昭和40年代半ば~50年代半ばは地方でも人口が伸びた。それは公共事業と企業誘致で多くの雇用と所得があったからだ。しかし、今は人口が減り、国家財政も危機的であり同じことはできない。
これから地方を伸ばすのは農林漁業だろう。日本は土と水に恵まれ、適度の光が降り注ぎ、適度に温暖。この四つの条件あるのは世界で日本くらい。しかし、世界の農産品輸出量第1位は米国。2位は九州と同じ程度の面積しかないオランダで、農地1㌶当たりの輸出額は日本の1000倍ある。なぜなのか考える必要がある。農地を維持して日本の地力を上げるには農業生産量を上げないといけない。また、漁業には無限の可能性があり、その鍵を握るのは冷凍の技術だろう。冷凍技術が発達すれば離島の魚でも低コストで鮮度を保ちながら市場に出せる。一方、この国の7割が森林なのに、なぜ外国から木材を買うほうが安いのか。もう一回、山を「お金が落ちる山」に戻したい。合板を違い違いに合わせることで強度を増すクロスラミネーテッドティンバー(CLT)技術というのがある。理論値では30階建てが建てられる。来年から政府を挙げて実用化し、本格的に大型木造建築物にかかりたい。森林が崩壊してしまったら地方創生もなにもない。
やりっぱなしの行政、頼りっぱなしの民業、無関心の市民。これが三位一体になったときに地方創生は絶対失敗する。この国をなんとか次の時代に残すため、福岡の皆さんの知恵と力を、心からお願いする。