元財務大臣
藤井 裕久 氏
プロフィール
藤井 裕久
(ふじい ひろひさ)
1932年6月、東京都出身の82歳。55年東京大学法学部卒業。同年4月大蔵省入省。主計官補佐を経て、佐藤内閣の竹下、田中内閣の二階堂両官房長官秘書官。主計官で退官。77年参議院選挙(全国区)に自民党から出馬して当選。2期務めたあと、86年衆議院に鞍替えし挑戦するものの落選。90年再挑戦して雪辱を果たした(神奈川14区)。12年の衆院選には出馬せず議員を引退した。
第271回例会は、藤井裕久元財務相氏が「消費増税と総選挙のゆくえ」と題し講演、会員120名が参加した。衆院選の争点について「集団的自衛権が日本の将来を変えてしまう一番重要な問題だ」と主張し、論争が深まっていないことに懸念を示した。藤井氏は幼少期の戦争体験を交えて「集団的自衛権の行使は絶対反対」と述べ、米国との軍事同盟につながる恐れを指摘。第二次世界大戦中の日独伊三国同盟で、事実上の仮想敵国とした米国と日本が戦火を交えたことを例に「現状は戦争と紙一重だ」と危機感を示した。「アベノミクス」については「強い者をより恵まれた者とする政策で非正規社員が増えた。雇用の安定を図るべきだ」と批判した。講演要旨は次の通り
なぜ、安倍晋三首相は解散総選挙をしたのか。それは、集団的自衛権の論争から逃げたことにほかなりません。日本の将来を変えてしまう重要な問題ですが、今回の選挙では全然、表に出ていない。それから、経済問題。このままいくと物価がどんどん上がるので、それを一度切っておきたいということです。選挙を機にそれらを棚上げし、新しく始めようというのが安倍首相の気持ちではないかと思います。
歴代首相が口にしなかった集団的自衛権をなぜ、安倍首相が言い出したのか。中国の肥大化や安倍首相のやや偏った歴史観に原因があると思います。安倍首相の言う「戦後レジームからの脱却」は、戦後に日本が作り上げた体制や考え方を変えようということです。戦後の自民党は平和に対して潔癖でした。その先輩たちを差し置いて、戦後の考え方から脱却しようとする歴史観は、非常に問題だと思います。
集団的自衛権の本質とは何でしょう。ある国がやられれば自分の国がやられたと見なして戦えということです。日本は第二次世界大戦中、日独伊三国同盟で事実上の仮想敵国とした米国と戦火を交えています。つまり仮想敵国は、必ず敵国になるのです。今、日米で軍事同盟を結べばどうなるか。仮想敵国は中国です。中国と戦争していいのでしょうか。もし米国が攻撃されたら日本も出撃する。これが集団的自衛権の本質です。
では、中国にどう対応するのか。第一次世界大戦は、欧州各国が2国間で条約を結んでいたため世界戦争につながった。1対1の同盟を結ぶと、「あいつをやれ」となれば、すぐやらざるを得なくなる。この反省からできたのが国際連盟です。多くの国が集まって協議すると、時間はかかりますが良識のある結果が出ます。2国間で問題解決を急ぐべきではありません。だから私は集団的自衛権には絶対反対です。この論点を隠すために選挙をしたのだとすれば許し難く、戦争と紙一重のところにあると思います。平和であって初めて社会保障、国民生活の安定があり、経済の成長があるのです。
次は経済です。円安と株価の上昇は、政府が金をばらまいているのが原因です。円安でもうかった企業グループがありますが、それは幻です。同じ量のものを輸入したら今までの何倍かの金がかかるんです。株と同じように一時的にもうかるかもしれませんが、円安のマイナス効果がある。また、円安は国力を弱くします。世界は米ドル経済です。米ドルが高くなり、円が安くなると、それだけ日本の国力が弱まっているんです。
加えて今の経済対策は、強い者をより恵まれた者にしようという政策です。円安も法人税減税もそうです。法人税を払うのは大企業中心で、全体の3割に過ぎません。これを減税するための代わり財源を、弱いところから引っ張り出そうという発想が出ている。雇用問題もそうです。非正規社員が増えている。いつクビを切られるか分からないから、非正規の人は消費しません。雇用の安定を図ることで、若者に将来への自信を持ってもらうことを優先すべきです。
もう一つ、大事なことがあります。それは2012年の解散総選挙を前に自民、民主、公明の3党で合意した国会議員の削減が、全然進んでいないことです。野田佳彦前首相は「やってくれるのなら解散しましょう」と言ったんです。国会議員を切るというのは一つのシンボルであって、これをやらないのはおかしい。野田前首相は怒っていますよ。