第262回例会は、森喜朗元首相が「東京オリンピックと安倍外交」と題して講演した。2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森氏は、東京オリンピック招致活動の舞台裏と組織委員会の今後の活動について語り、また、北方領土問題について「ロシアが4島全部返すことはないし、4島とも返さないということもあり得ない。どういう方法があるか、（日露）両政府が真剣に話している」と述べ、領土問題解決に向け具体的な協議に入っていると語った。講演要旨は次の通り

 政治家を辞めて2年以上経過した。私人であり、1スポーツ人と思っている。今76歳で、東京五輪の時は82歳になる。五輪が開催されるまで努力して組織委員会やっていられるなら、ありがたいことだ。この挑戦は私にとって五輪で入賞する以上の挑戦だろう。皆さんも五輪に協力してほしい。五輪の組織委員長になってから、高齢の方から励ましを受けるようになった。この目で東京五輪を見るまでは死ぬわけにはいかないという人がたくさんおられる。お互いに五輪まで頑張ろうと思う。
 五輪に向け、施設整備をしっかりしておもてなしの心も見てもらわなければならないが、「東京ばっかりだ」という人もいるだろう。それに福岡市は東京都と五輪招致を巡って戦ったこともあった。五輪は都市でしかできないようになっているが、各地から来られたお客や選手が、できれば九州や北海道などいろんなところに行けるような仕組みも考えたい。五輪の前年に日本で開催されるラグビーのワールドカップは全国13地域ぐらいの会場でゲームをする。九州地区でやるとなると、5チームぐらいが集まって総当たりのリーグ戦をするので10試合ぐらいやることになる。博多か鳥栖か長崎か大分か。キャンプ地を設けて地域と融合していくこともできる。2019年、2020年は日本にとってスポーツで大きく喧伝できる年になるだろう。  スポーツの力は世界を一つにしていく。プーチン大統領は「五輪の時だけは紛争をやめて協力を」と言ったが、五輪にはそんな力がある。過去にはボイコットしたこともあったが、五輪が順調に開けるということは、それだけ世界は平和だということでもある。多くの人が五輪に参加できるようにしたい。
 ロシアで冬季五輪が開かれたが、安倍首相が今進めているのは、日ロの問題だ。現在の中国、韓国と日本との間の問題は、先の戦争の後始末をきちんとせず、戦後処理をしていなかったことに原因がある。これが首相の靖国神社参拝も問題視されることにもなっている。領土の問題も結局は戦後処理から来ている。現状のままだと、米国も「戦後処理を間違った」と言うかもしれない。
 旧ソ連は、不可侵条約を破って参戦し、北方領土を持って行った。だが、ソ連敵視時代は終わり、ソ連はロシアなどになった。プーチン大統領と会った時、自由と民主主義の国になったし、そういう目で見てもらわないと困ると言っていた。一方で、北方四島を返還するとそこに米軍基地ができくるのではないかという危惧をロシア国民は抱いているとも言った。そして、クレムリンで会った時、「日ロ問題は柔道で言えば引き分けだ」と言った。勝ち負けなしだと。これは日ロのいずれもが満足せず、負けもしないということだ。その具体的な案を今、政府は検討しているところだが、もう北方四島のすべてが返還されるということはないだろう。そして、四島すべてが返還されないということもない。四島を二島ずつ分けると、歯舞、色丹は小さいので、総面積で分けるというのが麻生太郎さんだ。ただ、安倍首相とプーチン大統領が互いの人間を理解し、何でも話せるようにしないといけない。共に安定した政権の中で、どこかで決めれば、戦後処理では最大の成果になるだろう。
 日ロ関係が進展し、ロシアから日本がバランス良く資源を買えるようになれば、日本はそんなに中東に依存しなくても良くなるだろう。プーチンも日本と協力態勢を取りたいと考えているようだ。日本は極東アジアの中で今、孤立しているが、日ロ協力態勢が取れれば、中韓はこれまでのようなことを言いにくくなるのではないか。日本とロシア、中国、韓国、それに北朝鮮も含めた安定した地域を作れたらと思う。