公明党代表
山口 那津男 氏
プロフィール
山口 那津男
(やまぐち なつお)
1952年生まれ。茨城県出身。78年、東京大学法学部卒業。79年、司法試験合格。司法修習34期で同期に谷垣禎一・前自民党総裁、千葉景子・元法務大臣らがいた。09年9月、太田昭宏前代表の後を受けて、公明党代表に就任した。「至誠一貫」。水戸一校の校是を大切にしている。
第265回例会は、公明党の山口那津男代表が「日本がとるべき今後の針路」と題し講演、会員200名が参加した。
集団的自衛権の行使容認などを巡る与党協議について、憲法による歯止めや従来の政府方針との整合性を保つなど、三つの条件を守るべきだとの考えを示した。また政府・自民党の「限定容認論」を念頭に「安易に議論し、安倍晋三首相が『採用しない』と述べた考え方に段々近づいてしまってはならない」と強調。なし崩しの憲法解釈拡大をけん制した。「政府は憲法9条で日本が第三国への攻撃を排除するのは行き過ぎ、という考えを取ってきた」と改めて強調。「規範性、歯止めを失うような決め方をすれば、憲法改正せずに憲法が意味を無くす」と訴え、「従来の政府の考え方と論理的な整合性を保てるかだ」とも述べた。
集団的自衛権の限定的な行使容認には「時の政権次第で憲法解釈が際限なく拡大されかねない」との懸念があり、3条件は行使容認に高いハードルを示した形だ。有事に邦人を輸送する米艦防護について「日ごろから関係国と友好を築くなど、総合的な対応を」と要請した。講演要旨は次の通り。
自民、公明の連立政権の役割というものを考えながら、少し広い視点で考えたい。政権発足にあたって政権合意を結び、安倍晋三首相に何をやって頂くか優先順位を付けた。何よりも東日本大震災の復興であり、経済再生を進めてデフレ脱却を図ることだ。さらには社会保障と税の一体改革を実行していかなければならない。
政権合意にはなかった集団的自衛権を巡る議論がある。再び首相に就かれた安倍さんが、ご自身の問題意識を再び奮い起こした。日本の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある状況では限定的に集団的自衛権を行使できるという安保法制懇の提案について、安倍首相は従来の政府の基本的な考え方を踏まえているように思われると評価した。しかし、限定的と言っても国民は何を限定してどうなるのかが分からない。
また安倍首相は「政府与党の議論は集団的自衛権の行使を認めるためや、政府の憲法解釈を変更するためにやるのではない。国民の生命財産等を守るために不備があるとすれば、改正すべき立法措置の基本的な方向を閣議決定する」と言っている。その中で「もし憲法解釈の変更が必要だと判断されれば、その点も含めて閣議決定する」と話している。
そこで大事なことは、立法に必要な社会的現象があるかどうかの立法事実をしっかり見据えて議論していくことだ。安全保障上の必要性がどこにあるか具体的な事例を通して、立法事実があるかないかを議論していく。
ただ、わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある場合に限定的に集団的自衛権を使っていいということが、従来の憲法解釈と論理的な整合性がとれる範囲にあるかをきちんとチェックしなければならない。第三国に向けられた武力攻撃に対して、日本が国外でこれを排除することを政府は長い間認めてこなかった。いわば憲法の持つ規範性、歯止めの役割を失うような政府の決め方をしてしまったら、憲法改正をせずして憲法の意味をなくしてしまうのと同じことになってしまう。論理的整合性が保てるのか、憲法9条の持つ役割を今後も失わずに行けるのかがメルクマールになる。集団的自衛権以外のグレーゾーンやPKOも問題がなくはない。安易な議論をしていくと拡大していってしまう。
前政権で関係が悪くなった韓国や中国との改善はいまだにできていない。東アジアの経済的な相互依存ははるかに大きくなっている。オバマ大統領が集団的自衛権を巡る日本の議論は支持するとおっしゃった。米国の政府高官は決まったようにそう言う。しかし、例えば中国と摩擦を起こして不測の事態を招くようなことはせず、対話を通じて平和的に解決してくれということも強調される。米国としては日本が韓国や中国と軋轢を起こしているのは好ましくない。
安全保障の議論は自衛権の使い方だけでなく、もっと広く議論していく必要がある。船の航路は国際公共財として沿岸国を中心に安全を守らなければならない。どこかの軍隊がそれを遮断する恐れがあるから軍隊で守ろうというより、協力して安全を確保することがはるかに経済の実態にあった取るべき道ではないか。それをやるのは誰か。日本でいえば海上保安庁だ。
また、例えば米国の輸送船に日本人が乗って逃げざるをえないという事例を議論するのも結構だが、むしろそういう事が起きないように日本政府としてどう対応をしていくのかを詰めていく必要がある。事態が一夜にして急変するわけでは必ずしもない。安全を確保されているときに航空機で脱出するとか、日本の自衛隊は邦人を輸送できる制度があるわけだから、こういったものが機能するように関係国と友好的な関係を日頃から築いていく。そういうトータルな対応ができることを政府として国民に示すほうが、いきなり集団的自衛権の一部を限定的に行使して、と言われるよりは理解が進むのでないか。
安倍首相は期限ありきでなく、しっかりと国民の理解をいただけるよう議論してもらいたいとおっしゃった。しかし、年内にまとめる日米ガイドラインに間に合うように議論が進めば理想的だという答弁もされた。「理想的」ということは、むしろ首相は国民の理解をきちんと求めることが重要であるとの認識なのかなと思っている。連立政権に寄せられる期待を我々が間違えないようにしっかりと臨んでいきたい。